「DeepSeekショック」の余波はいつまでつづくか
中国のAIスタートアップ企業、DeepSeekが開発したAIモデル「R1」が世界に与えた衝撃は、いまなお波紋を広げている。
1月20日の公開後、高性能GPU(画像処理半導体)を開発するエヌビディアの株価が一時17%下落するなど“DeepSeekショック”が広がる一方、スマホの無料アプリランキングで1位になるなど各方面の話題をさらった。
マイクロソフトはさっそく安全性評価を完了し、AI開発の統合プラットフォーム「Azure AI Foundry」と「GitHub」でサービス提供を開始。エヌビディア、インテル、アマゾンなども相次いで自社製品にDeepSeekを導入している。
各国の政府にも影響があった。
米国のドナルド・トランプ大統領はAI開発で先行する米国企業にとって脅威になることを認め、「警鐘とすべきだ」と奮起を促した。また、ブルームバーグ通信の報道によると、DeepSeekが米国による輸出規制のかかったエヌビディアの先端半導体をシンガポール経由で不正に購入した疑いがあるとして、米当局が調査している。
台湾では卓栄泰行政院長(首相)が公的機関にDeepSeek利用の全面禁止を指示したほか、イタリア当局は同社が開発した生成AIの使用の規制を発表した。イタリア国内では、すでにDeepSeekのアプリがダウンロードできなくなっている。フランス、ベルギーなどの政府機関もDeepSeek使用について警告を発してデータ保護の実態を調査する。
日本政府も各省庁に対し、個人情報の取り扱いなどの懸念が払拭されないかぎり、業務での利用を控えるよう注意喚起している。
DeepSeek-R1のどこに世界的な衝撃を与えるインパクトがあるのか。今回は“DeepSeekショック”の核心を探っていこう。
OpenAIよりも格段に「コスパ」がいい
2025年初めまで、世界のAI開発とAI市場は米国がリードしていると誰もが疑わなかっただろう。生成AIではOpenAI、グーグル、マイクロソフト、メタ(旧フェイスブック)などのメガテック企業が先行しており、GPUではエヌビディアやアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)が高いシェアを誇っていた。DeepSeek-R1の登場は、AIテクノロジー覇権を握る米国に冷水を浴びせたといってもいい。
DeepSeek-R1が与えた最大のインパクトは、これまでの常識を覆すほどの“コスパ”だ。
「R1」はAIの中でも、予測などを得意とする「推論モデル」。DeepSeek発表の性能は、OpenAIが24年9月にリリースした最新LLM(大規模言語モデル)「OpenAI o1」に匹敵するが、利用料金は圧倒的に安い。
「o1」の利用料金は、入力データが100万トークン(自然言語処理で用いられる単位で日本語ではおよそ75万字)あたり15ドル(約2273円、2月7日時点)、出力データが60ドル(約9094円)。一方、DeepSeekの「R1」は無料で利用できる。API(異なるソフトウエア同士をつなぐ仕組み)を利用する場合は有料だが、OpenAIに比べて約95%も安い。個人利用、商業利用ともに、OpenAIなど既存のAIサービスに比べて格段に“コスパ”がいいことがわかる。