太田雄貴(東京五輪招致アンバサダー)
もはや2020年東京五輪招致委員会の「顔」である。国際オリンピック委員会(IOC)関係の会議の招致プレゼンテーションでは決まって、「アスリート代表」として登壇する。招致チームに「パッション(情熱)」を注入する役目と心得ている。
「僕はみんなに銀座のパレードのような“祝祭"を感じてもらいたい。日本のよさ、こんなにスポーツが大好きな国民がいるということを伝えたいのです」
銀座のパレードとは、昨年のロンドン五輪のあと、50万人のファンを集めた五輪メダリストのパレードのことである。太田はフェンシング選手として、北京五輪のフルーレ個人で銀メダル、ロンドン五輪でもフルーレ団体で銀メダルを獲得した。まだ現役である。
勝負強さは天性のものがある。「僕は勝つためにいる」と言い切る。
「チーム一丸で頑張っていくしかない。勝負は最後の最後、フタを開けてみるまでわからない。自分の練習時間は少しなくなりますけど、それでもやる価値のある仕事だと思っています。招致チームに関われたことを誇りに思います」
美形。言葉を交わすと、とてもさわやかである。プレゼンでも、時にユーモアを加え、時に情熱たっぷりに英語で語りかける。口にはしないけれど、英語のプレゼンの準備には人一倍の時間をかける。フェンシングと一緒なのだ。
もちろん、招致レースの肝は勝負であろう。でも、どこかでスポーツならではの価値を信じている。先のローザンヌ(スイス)でのIOC臨時総会の際、IOC委員のホテルに東京など候補3都市が招致応援ブースを設けた。太田は、そこでも説明役を担った。
「ブースが開く前、イスタンブールの招致関係者が視察にきたのです。猪瀬(直樹)知事らと一緒に肩を組んで記念撮影をした。みんなで拍手です。彼らも頑張っている。お互い、グッドラックと言い合える関係に感動したのです」
相手のことを批判したりせず、ただ互いにベストを尽くす。これぞスポーツマンシップであろう。ただ招致レースに銀メダルはない。選ばれるのは1都市のみ、栄誉は金メダルだけである。
「いま日本には明るいニュースがなかったりするので、もう一回、リセットして、スポーツっていいよね、と前を向いて歩いていけるようにしたい。それを実現させるためのシンボルが、東京五輪だと思っています」
27歳の太田は願っている。7年後、東京で開かれる五輪で、日本の子どもたちが金メダルを目指しスポーツに没頭している姿を。