春口 廣(関東学院大ラグビー部監督)

はるぐち・ひろし
1949年、静岡県生まれ。日本体育大学専攻科修了。神奈川県立向の岡工業高等学校勤務を経て、1974年に関東学院大学ラグビー部監督に就任。97年、大学選手権初優勝。07年、監督を退任。2010年よりラグビー部部長。2013年2月、監督復帰。関東学院大学経済学部教授(専門分野:スポーツ科学)。

試練である。31年ぶりの関東大学ラグビー・リーグ戦2部。チーム再建を図るため、名将の春口廣が監督に復帰した。

もう64歳。学生との意思疎通に不安がないわけではない。でもラグビーにかける情熱に衰えはない。「自分は“一生ラグビー"だからさ」と言い切る。

「立場はどうあれ、一所懸命にラグビーをやっていくしかない。そりゃ、ここ(2部)にはいたかねえさ。でも、どこでやるにしても、自分たちが目指すラグビーを、丁寧に丁寧にやっていけばいいのかなって」

努力の人、情熱の人である。1974年に関東学院大の監督に就任。コツコツと弱小チームを強くして、リーグ戦1部の優勝10度、大学日本一6度の強豪に育て上げた。だが2007年、部員の大麻事件で監督を引責辞任。チームは坂道を転がり落ちるように弱体化していった。ついに2部転落。

賛否はあろうが、春口が再び監督としてグラウンドに立つ。指導哲学は変わらない。私生活の規律を重んじ、学生には一生懸命にラグビーに取り組んでもらう。なんといってもプレーは基本重視。

試合では、「激しさ」を求める。今季リーグ戦2部の初戦の白鴎大戦(日大稲城グラウンド)。春口監督は円陣の中でこう、声を張り上げた。

「夢中になってラグビーをやろう! 集中集中! 子どもが夢中になってやるように、激しく、必死に、ラグビーをやろう! 自分たちにどんな力があるか。何ができるか。ここから1つずつ、積み上げていくぞ!」

試合は、124-0の圧勝だった。得点はともかく、無失点がうれしかった。みんなが必死になって、80分間戦った証拠である。「ホッとしたね」と春口監督は顔をくしゃくしゃにした。

2部にいても、春口のラグビーにかける情熱は変わらない。今季の目標は1部復帰? と聞けば、「慌てる必要はないんじゃない」と首を横に振った。

「自分たちが所属しているリーグで負けないで頂点までいく。それをターゲットにしてさ。1試合1試合、1つずつ、1つずつ、丁寧にやっていく。そうすれば、必ず、ひとつずつ成長するんじゃないかな」

正直、持病の心臓病の状態は芳しくない。でも、「一生ラグビー」の春口監督にとって、ラグビーこそが良薬か。からだの具合は? と聞けば、こう笑い飛ばした。

「友だちにドクターがいっぱいいるからいいのよ」

チーム再建はなるのか。春口監督の人生をかけた挑戦が始まった。

(松瀬 学=撮影)
【関連記事】
「しっかり準備をして、エンジョイだよ」-山口智史
「差が大きければ大きいほど」-後藤禎和
「体の中と外を同時に冷やしてね」-鈴木雅夫
「酒場めぐりを通じて、W杯のよさを伝える」-桜庭吉彦
「男だったら、パンチを蚊だと思え!」-古川新一