「トヨタ生産方式」の導入に失敗している企業が見落としていること……それは、現場の「人づくり」だ。これまでの作業と違うことを求められる人を、大野耐一はどのように動かしたのか。

トヨタ生産方式導入に失敗する企業が見落としている2つの本質

トヨタ生産方式を導入している企業は多いが、失敗しているところも少なくない。失敗した原因はいくつかに絞られる。まずは作業者に「作業を早くしろ」「手を早く動かせ」と命令することだ。現場の作業者は忙しくなり、疲弊するから会社を辞めてしまう。作業者にとっては楽になることがトヨタ生産方式なのに、本質部分をわかっていない。

また、複雑で高額な設備を導入して何でも機械にやらせようとする失敗だ。トヨタは設備を改善する前にまず人の作業を楽にするカイゼンを行う。工作機械もなるべく長く使う。「減価償却が終わった機械を使うことから本当の儲けが得られる」という言葉もあるくらいだ。

複雑で高価な機械は不具合が出たり、壊れてしまったら専門の修理人を呼んでこなくてはならない。作業は止まってしまう。その点、単純な機械であれば壊れにくいし、また、現場の人間でも修理することができる。機械が稼働する本当の時間と設備を購入するコストを勘案してから導入するのがトヨタの考え方だ。

もうひとつの特徴的な失敗は自社工場のなかだけにトヨタ生産方式を入れて、仕入れ先、卸し先を考慮しないことだ。自社工場内の倉庫を取り払い、中間在庫をなくしても、それを仕入れ先や卸し先に押し付けることになってしまう。自分さえ儲ければいいという利己主義だ。他人にとっては迷惑だ。

トヨタ生産方式は仕入れ先から顧客までをジャスト・イン・タイムで結び、百パーセント良品を届けることだ。自社工場の内部だけをジャスト・イン・タイムにして流れを作ったとしても成果は上がらない。

トヨタ生産方式を説明する場合、解説本やコンサルタントは、ジャスト・イン・タイムと自働化について語る。そして、かんばんとその種類について説明を始める。しかし、それは一種の訓詁学だ。文字の意味を説明しているだけで、トヨタ生産方式の根本精神をわかっていない。さまざまな同方式についての言及があるが、トヨタ生産方式のことを「トヨタらしさの根幹であり、コーポレートフィロソフィー」と語っているのは豊田章男だけだ。

同方式はユーザー、現場の作業者、物流、販売店の現場の人たちに楽になってもらうためにある。

トヨタ生産方式の最終目的とは好不況のいつでも、量産時に注文生産を実現することだ。

生産現場からユーザーの自宅までのすべてにおいて後工程引き取りを実現する。そうすれば注文生産、注文販売に結びつく。余分な部品を作ることなく、ユーザーが望んだ仕様の車を渡すことができる。ユーザーもハッピーだし、生産、物流、販売の全員が幸せになる。二本柱とかんばんの説明で終わるような単純なシステムではない。トヨタ生産方式は壮大な実験だ。

大野耐一はこう書いている。

(イラストレーション=浅妻健司)

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