モノづくりにおけるムダをなくし、効率化を極める「トヨタ生産方式」。自動車工場において、通常は1車種しかつくらないが、トヨタの元町工場は9車種も同時に製造する。一体、何が他の工場と違うのか。

元町工場にできて他社にできないこと

わたしはこれまでに自動車工場を、トヨタの工場も含めて40カ所は訪ねた。日本だけでなく、アメリカ、中国、インド、タイ、台湾……。むろん、他の自動車会社、日産、スバル、フォードを見た。

トヨタの工場はとにかくきれいに整頓されている。床にゴミやほこりはない。天井の照明が切れていることはない。通路に部品が置いてあることもない。掲示物はひとつだけだ。

「よい品 よい考」と書かれた標語だけである。通路にねじの1本が転がっているなんてこともない。もし、1本でもねじが落ちていたら、「どうしたんだ」と人が寄ってきて、すぐに原因を話し合う。

コロナ禍になってから工場見学は中止されていたので、わたしが見学するのは6年ぶりのことだった。元町工場の9車種(車型)とはクラウン(セダン)、クラウン(クロスオーバー)、MIRAI、bZ4X、ノア、ヴォクシー、レクサスRZ(バッテリーEV)、ソルテラ(スバルへの供給車)、パトカーである。

本来、生産ラインは1車種を流すためのものだ。それもパワートレーンも2種類ほどと決まっている。エンジン車(ICE〔アイス〕=Internal Combustion Engine)のラインに燃料電池やバッテリーEVを流したら、部品が膨大になってしまう。車の部品は3万個とされている。共通する部品もあるけれど、車種が複数になれば部品数も増える。ライン側にある部品棚も追加しなくてはならない。また、サプライヤーからの物流システムもつくらなくてはならない。1車種の組み立てでさえ、数十社から部品がやってくる。それが9倍になったらとてもコントロールできない。しかし、トヨタはできる。

今でもやっているところはあるが、かつての自動車会社は倉庫をつくって、すべての部品をいったん、そこに入れておいた。管理者が部品を管理して、取りに来た作業者に渡す。作業者はラインに戻ってそれを取り付ける。フォードの大量生産が始まってから、それが、自動車製造では常識だった。

だが、「トヨタ生産方式」は常識を覆した。中間倉庫はない。部品は組み立て工程に合わせて、運ばれてくる。そのためにはサプライヤーとのチームワークが必要だ。サプライヤーは自動車の組み立てに合わせて部品を製造し、運搬時間も考えて、工場に搬入する。

サプライヤーとトヨタは連携して車をつくる。

ボールを保持しないでワントラップしたら、すぐに次の選手にボールを送ってゴールにつなげる。サッカーのスペイン代表のような華麗なパス回しだ。

滞留させないことで「リードタイム」を縮める。ちなみにリードタイムとは商品やサービスを受注してから、ユーザーに納品するまでにかかる時間のことだ。工場では部品が入ってきて、製品が出ていくまでの時間である。