30年前に豊田章男が販売の現場に立ったとき、「ジャスト・イン・タイム」が、浸透していない状況を目の当たりにした。時が経ち2022年、再び販売とお客さまをつなぐ挑戦に臨んだ――。

トヨタらしさを取り戻す戦いが始まった

トヨタ生産方式(TPS)を販売と物流にあてはめたシステムをトヨタ販売物流方式(TSL=Toyota SalesLogistics)と呼ぶ。

「トヨタと販売店、お客様の間をジャスト・イン・タイムでつなぎたい」という積年の思いを実現するための考え方なのである。

トヨタの販売店経営者が三代目となり、経営者たちの意識が変化してきたことを見定めて、豊田章男はTSLを導入する利点を自ら伝えた。

2022年、業務改善支援室の頃から章男の下で販売改革に取り組んできた元副社長の友山茂樹を国内販売事業本部本部長にした。そこからTSLの導入は加速していった。

友山はこんな話をする。

「豊田(章男)から販売本部長をやれ、と内示されたとき、『これはリベンジだ』と言われました。30年前、豊田は業務改善支援室を設立しました。そこで始めた物流改善が原点です。生産、物流部門から70人のメンバーを集めて全国の販売店に常駐させ、販売店によるTSL自主研活動が始まりました。新車からスタートした物流改善は多くのイノベーションを国内販売にもたらしたのです。しかし、TSLは販売部門の本流にはなれず、徐々に下火になってしまいました。それから時間が経ちました。18年、社長時代の豊田がトヨタらしさを取り戻す戦いと称して、TPSを経営の中核に掲げ、21年にはTSL自主研活動を再開しました。そこから4年余り、複数の販売店において、さまざまな改善活動に取り組んでいただきました」

友山は淡々と話したけれど、「徐々に下火になった」のはその当時は社内、販売店は販売の業務改善を理解しようとしなかったからだ。友山は今、販売の現場に立っている。彼にとっては本望だろう。

トヨタ生産方式を物流、販売に当てはめる時に武器となったのが販売物流統合管理システム「J-SLIM」(ジェイ・スリム)だ。J-SLIMは販売店がユーザーから受注した新車の情報を納車希望日順にメーカーの生産予定枠に並べるシステムである。従来は受注した順番に生産にとりかかっていたのを納車希望の日を優先することにした。

「納車に1年かかる」アルファードに対する大誤解

これはちょっとわかりづらい。

どうしてそうしたかといえば、たとえば、リース会社や法人向けに販売するクルマは、入れ替える時期が決まっているので納期を厳守しなければならない。そうなると販売店は、早め早めに受注してとにかく早く生産させようとする。そのためクルマが完成しても、入れ替える日が来るまで顧客には引き取ってもらえない。そこで、販売店のヤードに長期間滞留することになってしまう。

(イラストレーション=浅妻健司 写真提供=トヨタ自動車)

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