※本稿は、松村真宏『なぜ人は穴があると覗いてしまうのか 人を“その気”にさせる仕掛学入門』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
人は目新しさと親しみやすさに動かされる
人は普段と違うものがあれば興味をひかれます。これは新規性が高いからです。仕掛けは直感的に人の興味をひかないといけないので新規性が不可欠です。でも同時に重要なのが親近性です。
仕掛学における新規性と親近性の役割について説明しましょう。
まず、新規性とは今まで見たことがなく珍しいもので「何だろう」と興味をそそられるものです。普段生活している場所に知らないものが置かれていれば、誰でも気になってまじまじと見たくなるでしょう。
一方、親近性とは言うまでもなくよく知っているものです。今までに経験したことがあるものや、初めて見たものでも使い方が容易に想像できるものが含まれます。
たとえば普段使っているゴミ箱の上に突然バスケットゴールが設置されれば「なんで?」と誰もが注目するでしょう。これが新規性です。
同時に親近性も作用します。バスケットゴールを見た瞬間、多くの人は体育館でシュートを打ったときの楽しい記憶や、友だちと遊んだ思い出を思い浮かべるのではないでしょうか。過去の経験と結びつき、無意識のうちに体育館の風景が頭に浮かび、ボールを投げたときの感触や音まで思い出されるかもしれません。
すると「シュートしたい」という気持ちがわき、ゴミ箱とゴールが結びついてゴミをシュートするという行動につながるのです。
コロナ禍でティッシュ配りを成功させた方法
また、コロナ禍で「他人との接触」に抵抗がある時期に、マジックハンドでポケットティッシュ配りを行った事例もあります。原宿を歩いている人は、マジックハンドでポケットティッシュを配る人を見て「なんでここにマジックハンドが?」と不思議に思い、興味がわきます。これが新規性です。
一方、マジックハンドは使ったことがない人でもその使い方を容易に想像できるという親近性も併せ持っています。
バスケットゴールもマジックハンドも親近性があるからこそ、多くの人を仕掛けに引き込むことができます。新規性しかない場合は「どうやって使うのかな」と理解するのに時間がかかり、面倒と感じて途中でやめてしまう人も多いでしょう。あまりに奇抜で独創的なものが置かれていると、それはアートのオブジェになってしまい、鑑賞されるだけで終わってしまいます。
このように仕掛けでは、新規性で好奇心を刺激するだけでなく、親近性で引き込むしくみが効果を発揮するわけです。



