「ジェンダーロール」の違和感
2024年6月、電車に乗っていつものようにドア横の広告を確認すると、濃い水色の二つの画面が目にとまりました。
目立つ赤い文字で商品名の「リポビタンD」、白い文字でお馴染みのキャッチフレーズ「ファイト イッパーツ!」、女性(木南晴夏)が写っている方には「仕事、育児、家事。3人自分が欲しくないですか?」、男性(妻夫木聡)が写っている方には「時代が変わると疲れも変わりますからね。」と、それぞれ広告を見る人へ呼びかけるコピーが書かれています(図表1)。
広告全体の配色や画面のデザインが、ずいぶん前に見たリポビタンDの広告に重なって懐かしさを感じつつ、筆者はそれぞれの広告を撮影して、「ジェンダーロール」とコメントとともにX(旧Twitter)に投稿しました。
ほどなくしてその投稿にリポスト、引用リポスト、リプライがたくさんついて、バズった状態になりました。反応の多くは、広告の中で「仕事に加えて家事や育児は女性が担うべき」と女性には過重な役割を担わされているのに対して、男性はただ「疲れのあり方が変わった」とあたかも他人事のように語っているだけで、コピーの内容に男尊女卑的な価値観が反映されていて時代錯誤も甚だしい、というものでした。
広告表現への想像以上の「炎上」
筆者が「ジェンダーロール(性別役割分業)」という言葉で示唆したかったことは概ねそのような反応に沿うものですが、寄せられたリプライや引用リポストが、強い口調で広告に表現されたジェンダー観を否定したり、大正製薬の企業姿勢を糾弾したりするものが多いことに驚きました。
ソーシャルメディア上での広告表現をめぐる反応はしばしば「炎上」と呼ばれますが、電車内という公共空間で掲出される広告のメッセージが、いかに消費者の企業に対するイメージを下げ、信頼性を損ない得るかを、自分の投稿に対するさまざまな反応を目の当たりにして実感しました。
その後、筆者が投稿した写真はウェブニュース専門チャンネルABEMA NEWSの番組で紹介され、出演者たちは広告を見ながら、女性に添えられたキャッチコピーの何を課題と感じるのか、それぞれの観点から意見を述べあっていました。
出演者たちの視点と意見には噛みあわないものがあり、議論を通して表現への理解が深められたとは筆者には思えませんでしたが、広告表現をめぐって、ソーシャルメディア上での言葉の応酬にとどまらない対話の場の必要性は認識されつつあると感じました。

