政党の選挙ポスターを観察すると何が見えてくるか。『その〈男らしさ〉はどこからきたの? 広告で読み解く「デキる男」の現在地』(朝日新書)を上梓した小林美香さんは「その中で表現されている『価値観』を考察すると、『おじさんの詰め合わせ』状態から脱却した未来の政治を思い描く手がかりが得られる」という――。

政党のポスターがしのぎを削る壁面

筆者が広告観察の定点観測地として設定している場所の一つに、最寄り駅に向かう道すがらで頻繁に通りかかる倉庫の壁があります。

長さ10メートルは下らない広い壁面で、人通りもそれなりにある道路に面しているので、常に複数の政党のポスターが競いあうように掲出されています(衆議院議員の尾辻かな子によれば、このようなさまざまな政党のポスターが貼られている壁面は選挙関係者から「オールスター」と呼ばれます)。

なかには掲出されて時間が経過する中でかなり色せているものもありますが、多くの政党は新しいポスターができるたびに貼り替えを行っています。場所取りの激しさを物語るように、3メートルほどの高さに貼られているものもあり、壁面全体がコラージュ作品のようにも見えてきます(図版1)。

「オールスター」状態の壁面(東京都板橋区、2023年筆者撮影)
【図版1】「オールスター」状態の壁面(東京都板橋区、2024年筆者撮影) 出典=『その〈男らしさ〉はどこからきたの?』(朝日新書)

壁面全体を鑑賞するようにポスターがひしめきあう様子を眺め、文言を読んでみると、写真に加えて画面の色使いや文字のデザイン、キャッチコピーやスローガンを含めたレイアウトなど、道行く人の視線を惹きつけるために各党がしのぎを削っていることを見て取ることができます。

煽り表現を多用する政党の特徴とは

たとえば日本維新の会のポスターは、縦書きの大きな「維新」の二文字で力強さを印象づけようとしているのが遠目からでもよくわかりますし、「身を切る改革、実行中。」のような威勢のいいキャッチフレーズで押し出す傾向が特徴的です。

一方で、公明党のポスターは落ち着いた配色のトーンや明朝体を主体とするフォントで、全体的に安定感を印象づけます(図版2)。

「オールスター」状態の壁面(東京都板橋区、2023年筆者撮影)
【図版2】「オールスター」状態の壁面(東京都板橋区、2023年筆者撮影) 出典=『その〈男らしさ〉はどこからきたの?』(朝日新書)

近年設立された政党のポスターは、既存政党への対抗意識から煽り表現を多用する傾向があります。たとえば国民民主党は、炎のようなオレンジ色と黄色のグラデーションの背景で、代表の玉木雄一郎の大きな身振りと挑むような表情や熱意を印象づけています。参政党は、「日本をなめるな」という威嚇するようなフレーズとイラストが目を引き、国民民主党と同様に煽情的に訴求する表現に寄っています(図版3)。

国民民主党、参政党のポスター(東京都板橋区、2024年筆者撮影)
【図版3】国民民主党、参政党のポスター(東京都板橋区、2024年筆者撮影) 出典=『その〈男らしさ〉はどこからきたの?』(朝日新書)

「バラマキは増税のもと」と減税を訴える幸福実現党や、食の自給率向上、ジェンダー平等、気候危機を訴える日本共産党など、文言を主体とするポスターでは、連続して貼ることで繰り返し印象づけています。