※本稿は、松村真宏『なぜ人は穴があると覗いてしまうのか 人を“その気”にさせる仕掛学入門』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
人を引きつける“良い仕掛け”の条件
「仕掛け」は一般的にはたくらみや戦略といった意味で用いられる言葉ですが、仕掛学における「仕掛け」には厳密な定義があります。「仕掛け」が満たすべき要件に「公平性(Fairness)」「誘引性(Attractiveness)」「目的の二重性(Duality of purpose)」の3つを掲げています。それぞれの頭文字をとり「FAD要件」と呼んでいます。
【公平性:平等に利益を得られる】
公平性とは、仕掛けた側と仕掛けられた側の双方が同じように利益を得ることです。仕掛けが成功することで、利己的な目的と利他的な目的が同時に満たされることが大前提です。仕掛けた側だけが利益を得て、仕掛けられた側が損をすることがあってはならないのです。
また、仕掛けではあえて“ネタバレ”をよしとしています。仕掛けられた人が気づいたときに、不快に思うようなものは使いません。
たとえば、商品の表示や広告に消費者の心理や錯覚を巧みに利用する方法がありますが、たとえ違法でなくても結果的に消費者が「うまい言葉に乗せられてしまった!」と不快に思うようなものは仕掛けではありません。
【誘引性:ついしたくなる】
誘引性とは、ある行為に誘い引き込むこと。つまり、仕掛けを見たとき「ついしたくなる」性質を持つものを指します。原因やきっかけを表す「誘因」ではなく、人を引きつける「誘引」であることに注意してください。
仕掛学の基本は、人の「やりたい」という気持ちを使って行為を促すことなので、誘引性は非常に重要なポイントです。あくまで仕掛けられた側が自由な意思で行動を判断することが大事です。
「ゴールにシュートしたい」「的に当てたい」「楽器を弾いてみたい」「筒のなかを覗いてみたい」などの実例を眺めていると、人が本能的にどんなものに興味を持ち引きつけられるのかがわかってきます。
【目的の二重性:二つの目的を叶える】
目的の二重性とは、仕掛けた側と仕掛けられた側とで目的が異なるという意味です。
たとえば大学のキャンパスに「バスケットゴール付きゴミ箱」を置いた事例があります。仕掛けた側の目的は「ゴミをゴミ箱に入れてもらう」という課題解決です。
この目的を達成したい人が、自分の目的を広くみんなに共有してもらおうと「ゴミはゴミ箱に入れましょう」と貼り紙をするのは正攻法ですが、人は正論で動くわけではないので、必ずしもうまくいくとは限りません。


