愚痴が多い人はなぜ愚痴が多いのか。心理学者の榎本博明さんは「愚痴っぽい人は今の生活に不満が多い。今の生活に満足できないために過去のネガティブな記憶をわざわざ引っ張り出して嘆くのである」という――。

※本稿は、榎本博明『なぜあの人は同じミスを何度もするのか』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

頬杖をついて座っている女性
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「今、自分が不満だから」ネガティブな記憶を引っ張り出す

記憶というのは過去を映し出すものと思うかもしれない。たしかに過去の出来事の記憶は、過去を映し出しているはずである。だが、よく調べてみると、その過去の出来事の記憶には、過去だけでなく「今」が映し出されているのだ。

どういうことか。わかりにくいと思うので、もう少し具体的に説明しよう。

ある大がかりな調査では、幼児を対象にして、親子関係がしっかり築かれ子どもの情緒が安定しているか、それとも親子関係がうまく築かれておらず子どもが情緒不安定気味であるかが測定された。そして、その子たちが大学生になったときに、自分の幼児期を回想してもらった。

その結果、自分の幼児期を良い時代だったというように思い出すか、それとも不安定で不幸な時代だったというように思い出すかは、実際の幼児期の状態によるのではなく、今の大学生活に適応しているかどうかによることがわかったのである。

つまり、今の大学生活にうまく適応している者は自分の幼児期を良い時代だったというように回想し、今の学生生活に不適応気味である者は自分の幼児期を良くない時代だったと回想する傾向がみられたのだった。

幼児期が良い時代だったか良くない時代だったかは、現在の自分の適応状態に沿って評価されるというわけである。

ここから言えるのは、愚痴っぽい人は今の生活に不満が多いということである。本書の気分一致効果のところでみてきたことに符合するものだが、理不尽な目に遭ってきたから愚痴が多いのではなく、今の生活に満足できないために過去のネガティブな記憶をわざわざ引っ張り出して嘆くのである。

人生の中で「記憶の薄い時期」がある理由

私に相談に来たある経営者は、幼い子どもの頃は楽しい思い出が多く、けっこういろんなことを覚えているという。それなのに、もっと新しい記憶であるはずの思春期から青年期の思い出がまったくないという。何だか暗い毎日だったというような漠然としたイメージはあるのだが、具体的なエピソードがほとんど思い浮かばないというのである。

ここには精神分析でいうところの「抑圧」という心理メカニズムが働いていると思われる。思い出したくない出来事が含まれる時期についての記憶は、全般に薄れているものである。

とくに嫌な出来事でなくても、むしろ良い出来事だったとしても、その時期の何かを思い出せば、連想が働いて別の出来事がつぎつぎに思い出され、そうした連鎖の果てに、思い出したくない出来事まで思い出してしまう可能性がある。ゆえに、その時期全般の記憶が抑圧される。