心がボロボロになったときにはどうすればいいのか。公認心理師の伊藤絵美さんは「まず何よりも大切なのは、“無条件の安心安全”だ。これは、わたしたち人間だけではなく、全ての生き物が健全に育つための基盤になっている」という――。

※本稿は、伊藤絵美『自分にやさしくする生き方』(ちくまプリマー新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

「自分にやさしくする生き方」に欠かせないもの

「自分にやさしくする」ためにまず必要なのは、「安全な環境のなかで安心していられること」であり、そのような安全な環境に自分の身を置くスキルです。

「中核的感情欲求(誰もが満たされて然るべき当たり前の欲求)」については、拙著『自分にやさしくする生き方』(ちくまプリマー新書)でくわしく解説していますが、数ある中核的感情欲求のなかでも、第一に挙げられるのがこの「安心安全」への欲求です。

安全な環境にいることで人は初めて「自分にやさしくする」ことができますし、自分の身を安全な環境に置くこと自体が「自分にやさしくする」ことでもあります。そういう安全な環境において、人は安心感を抱くことができます。

安心感とは「大丈夫」という感覚です。この世界は大丈夫、一緒にいる人は大丈夫、自分は大丈夫、この場所は大丈夫、人生は大丈夫……という感覚です。

これには理屈や条件は要りません。「○○だから、大丈夫」というように、「大丈夫」に理屈や条件がくっついてしまうと、「○○でなければ、大丈夫じゃない」ということになってしまいます。

そういう理屈や条件つきの「大丈夫」ではなく、理屈抜きの無条件の「大丈夫」という感覚を自分に与えたいのです。

上を見上げる女性
写真=iStock.com/Satoshi-K
※写真はイメージです

現実世界は「安心安全」からは程遠い

とはいえ、「実際にこの世界は安全じゃないし、全然安心できないじゃない!」と思う人もいることでしょう。

というか、そう思う人のほうが大多数です。

それはもちろんそうなんです。今私たちが生きているこの世界は、本当は全然大丈夫ではなくて、自然災害は多発しますし、事件や事故は日常茶飯事ですし、紛争や戦争はいたるところで起きていますし、理不尽なことは世の中にたくさんありますし、自分や大切な人がいつ深刻な病気にかかるかわかりませんし、生きていくためにはお金の心配がつきまといますし、人間関係だっていつも円満とは限りませんし……。

こうやって書き出せばきりがないほど、状況も自分自身も「安心安全」からは程遠い現実があることがわかります。

それなのになぜ「安心安全」なのでしょうか?

それは赤ちゃんや子どもが健やかに育つためには不可欠な感覚だからです。無条件の安心安全が赤ちゃんや子どもには絶対に必要です。ということは、私たちの「内なるチャイルド」にも同様に安心安全が不可欠だということになります。

※筆者註:生きづらさの根っこに焦点を当てる心理療法「スキーマ療法」では、「モード(今の自分の状態)」という考え方があります。本書では、複数あるモードを2つ「ヘルシーな大人モード(=ヘルシーさん)」と、「内なるチャイルドモード(チャイルド)」)に絞って解説しています。