焼き鳥チェーンの鳥貴族が東大阪市で創業したのは1985年のこと。現在は全国で688店舗、将来は1000店を目指すほどに規模拡大したが、なぜ成長を継続できたのか。JOCサービスマネージャーで、組織開発を手がけるチームボックス代表の中竹竜二さんは「店の入り口に掲げられた言葉に、25歳で創業した大倉忠司さんの経営哲学が凝縮されている」という――。

本稿は、中竹竜二・加藤洋平『「人の器」の磨き方 リーダーシップ・コーチングと成人発達理論による人間力の変容プロセス』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。

鳥貴族 西尾店
鳥貴族 西尾店(画像=HQA02330/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

なぜ「鳥貴族」の入口の札は「うぬぼれ中」か

勝ち続けている組織の器は、どのように磨かれていったのでしょうか。具体的な事例で考えてみましょう。

焼鳥居酒屋の「鳥貴族」を1軒の店から全国規模の外食チェーンに成長させたエターナルホスピタリティグループ社長、大倉忠司さんの取り組みは、組織の器がどう広がっていくかを考えるうえでとても参考になる事例です。

大倉社長には「うぬぼれていきましょう」という独特の口癖があります。同社の経営理念でもある「うぬぼれ」という言葉が生まれたのは、まだ6店舗だった創業期のことです。

店長たちから「社長が日々語る飲食業界の素晴らしさを明文化してほしい」という要望を受け、大倉社長は「うぬぼれ」という一見ネガティブな言葉を理念として掲げました。

なぜ、あえてこのような言葉を選んだのか。大倉社長の答えは明快です。

「社外の人は『何をうぬぼれているんだ』と思うでしょう。だから先にこちらから『うぬぼれてますよ、でも本気ですよ』と宣言してしまうんです」

この真意を端的に説明すると、「焼き鳥で世の中を明るくしていく」という同社の創業時の想いを本気で実現するため、世間からの目を気にせず、堂々とその想いに「うぬぼれ」て働こうという意志の表れだということです。

つまり、世の中を明るくするための目的としての焼き鳥屋という戦略的思考が込められているのです。「焼き鳥屋で世の中を明るくするなんて何をうぬぼれてるんだ」という世間からの批判を恐れるのではなく、むしろ先回りして言語化することで、組織の本気度を示す。これは、経営者としての器の大きさを示す一例といえるのではないでしょうか。

鳥貴族の店舗入り口には「営業中」の代わりに、大倉社長自らの筆文字による「うぬぼれ中」の札が掲げられています。これは、「私たちの焼き鳥が世の中を明るくしている」という信念の表明であると同時に、スタッフがいきいきと働くための拠り所となっています。

「うぬぼれ中」と書かれた札
撮影=プレジデントオンライン編集部
「うぬぼれ中」と書かれた札

「自分の仕事に誇り持って働ける」

「うぬぼれ中」が逆説的に、仕事への誇りを表現していることがこの言葉の重要な点です。

アルバイトスタッフの一人がこう語ってくれました。

「飲食店の経験がないので初めは不安でしたが、『うぬぼれていきましょう』の本当の意味を知って、自分の仕事に誇り持って働くことができています」

単なる作業が誇りある仕事へと変容する。この瞬間こそが、組織の器を広げる転換点です。組織の理念が個人の自己認識を変え、それがさらに組織全体のパフォーマンスを高める好循環を生み出します。

大倉社長の経営哲学で特筆すべきなのが、焼き鳥屋で世の中を明るくしたいという思いを込めた「うぬぼれ」という理念と利益の明確な順序です。だから、会議ではほとんど数字の話をしないといいます。

「目的は理念の達成です。ただし、理念を達成するためには利益が必要になります。利益はあくまでも手段であって、間違った利益は追いません」

この優先順位を組織全体で共有し、ぶれずに貫くことで持続的な成長を実現しています。ここからわかるのは、短期的な数字に振り回されず、長期的な価値創造にコミットする。この姿勢が、組織の器を保ち続けるということです。