「失敗から学ぶ」で心理的安全性が高まる

「振り返ると失敗はないんです」という大倉社長の言葉も印象的です。

「失敗から学ぶという考え方を持っているので、すべての失敗も、そのおかげで今がある。そう捉えています」

この考えが組織全体に浸透すれば、心理的安全性が高まり、挑戦を促す文化が育ちます。失敗を恐れずに新しいことに取り組める環境こそが、組織の器を広げる土壌となるからです。

中竹竜二・加藤洋平『「人の器」の磨き方 リーダーシップ・コーチングと成人発達理論による人間力の変容プロセス』(日本能率協会マネジメントセンター)
中竹竜二・加藤洋平『「人の器」の磨き方 リーダーシップ・コーチングと成人発達理論による人間力の変容プロセス』(日本能率協会マネジメントセンター)

同社の組織の器が真に問われたのは、コロナ禍でした。

業界の中でもいち早く休業を決断し、同時に「給与は100%支給する」ことを発表しました。初年度は倒産の危機も現実味を帯びていたといいます。しかし、大倉社長の判断軸は明確でした。

「人命第一です。大きな決断をするときは、まず社員が成長するのか、社員が幸せになるのかを考えます。その判断軸で決断すれば、失敗はありません」

この決断は個人の器だけでなく、組織としての器の表れです。危機において何を優先するかは、組織の本質的な価値観を浮き彫りにします。

採用において大倉社長が求めるのは「正しい人間」と「起業家精神を持っている人」です。では「正しい」とは何を意味するのでしょうか。

「善悪の判断をきちんとできることです。人間は弱い生き物ですから、誘惑に直面したときに思いとどまることができるかどうか。そして経営者自らが模範となることです」

根底にあるのは「人間はすべて平等」という思想です。肩書きや立場にかかわらず、人として正しくあることを重視する。この価値観が、組織の倫理的基盤を形成します。

40年間一度も声を荒らげたことがない

興味深いのは、大倉社長が「隙がないのが欠点かもしれない」と自己分析している点です。

40年間一度も声を荒らげたことがないという一貫性を保ちながらも、次世代に対してはこう期待をかけます。

「私と同じである必要はありません。キャラクターはいろいろあっていい。ただし、いい人間がトップでいてほしい」

組織の器は、一人の完璧なリーダーによって維持されるものではありません。理念を共有しながらも、多様な個性を持つ人材によって受け継がれていくものなのです。

インタビューに答える鳥貴族ホールディングス(HD)の大倉忠司社長
写真=時事通信フォト
インタビューに答える鳥貴族ホールディングス(HD)の大倉忠司社長(=2023年1月25日、大阪市浪速区)