本連載では、“伝説のトップコンサルタント”堀紘一氏に、メルマガ編集チームがまとめたリーダーたちの悩みをぶつけ、ズバッと斬っていただきます。(2022年10月31日レター)

――売上高1兆円を超える日米欧500社を対象にした調査(ウイリス・タワーズワトソン)で、日本のCEOの平均報酬が2億300万円となり、初めて2億円を超えたとのことです。同調査では、米国のCEOが平均16億円、ドイツが8億5000万円、英国が6億9000万円、フランスが6億1000万円という結果でした。素朴な疑問ですが、なぜ日本のCEOの報酬は他の先進国よりも極端に低いのでしょうか。また、日本人の平均給与は30年以上も増えていないため、活力が失われています。日本社会の活力を取り戻すには、どこから手をつければよいのでしょうか。堀さんの視点をご教示いただけないでしょうか。

【堀】私の処女作で『変われ日本人 甦れ企業』という書籍があります。1987年刊行ですから、今から35年前になります。この本の前書きに「今、新日鉄の社長の年収が約6000万円で、新入女子社員の年収が二百数十万円。(税率が高い時代だったので)社長は税金を引かれると手取りが約1600万円。新入社員は税金をほとんどとられない。すると社長の手取り年収は新入社員の7倍ほどにしかならない。これでは日本は世界から取り残されてしまうだろう」ということを書きました。その後35年かけてやっと、日本のCEOの報酬が2億円台にのったことになります。

なぜ日本の社長の報酬が極端に低いのかと言えば、戦後日本の人事制度が資本主義ではなく、共産主義そのものだったからです。人間の値打ちをお金だけでとらえてはいけませんが、私は長い間、若くても仕事ができる社員の年収は3000万円、さらに頑張れば5000万円で処遇する制度に変えるべきだと主張してきました。

以前に東大総長から相談を受けたことがあります。「私たちが東大で手塩にかけて育てた卒業生が、堀さんも含めて皆外資系に行ってしまうのはなぜなのか」と問われたので、「総長のおっしゃることもわかりますが、皆生身の人間で妻子がいますし、老後のことも考えれば、資産家でない限りは、年収800万円か年収3億円かと言われれば、自分を高く評価してくれる会社に行くに決まっていますよ」と答えました。

さらに総長から、現状を変えるにはどうすればよいかと問われたので、「日本の会社の人事制度を変えるべきです。欧米の会社と同様に会社に貢献する人には応分の報酬を払い、それを嫉妬する社員には辞めていただくという制度に変えない限りは、日本はどんどん落ちていくと思います」と答えました。

逆に、プロとして応分の報酬を受け取るには、当然それだけの仕事の質と結果を出さなければなりません。私の場合は、お客さんに提出する企画書を締め切り1週間前には書き上げていました。その後何回も読み返して、このロジックは分かりにくいかな、ここは入れ替えた方がよいかな、この比喩はもっと適切な比喩に変えようなどと文章を磨き上げるための時間をつくっていました。

社員たちにも、企画書は必ず締め切りまでにお客さんが満足する以上のものを仕上げなさいと指導していましたが、なかなかむずかしかったようです。己に対して厳しさがなければプロとはいえません。人に厳しい前に自分に厳しくあるべきです。

もう一つ、プロであるならば、自分の仕事がどんな価値を生んでいるのか、それを付加価値ベースでとらえてみることも大切だと思います。私の場合、コンサルタント時代は、実働1時間15万円で仕事を受けていました。1日120万円、年間で3億円の報酬になります。年俸10億円や20億円を得ている大リーグ選手よりはずっと低いですが。お客さんからは、私の仕事の成果として何千億円の売り上げが立ったという評価もいただいていました。お客さんにどれほどの価値を与えているのか、という意識をもっていることも大切です。

(構成=今井道子)