子育て中の家庭の朝は、慌ただしい。お気に入りの服ばかりを着たがる子に、スムーズに着替えてもらうにはどうすればいいのか。玉川大学教育学部の大豆生田啓友教授は「そういう子は、自分のこだわりを大切にしたいタイプかもしれません。子ども自身が自分で決めてもらうことが大切なので、ぜひいくつか試してほしいことがある」という。自身も3歳の息子を育てる、ノンフィクションライターの山川徹さんが聞いた――。
Eテレでおなじみ、玉川大学教育学部の大豆生田啓友教授
撮影=プレジデントオンライン編集部
Eテレでおなじみ、玉川大学教育学部の大豆生田啓友教授

忙しい朝のお着替えタイムに「新幹線のヤツがいい」

3歳児Kは、こだわりが強い。

Kには、とりわけお気に入りの服がある。紺地に、新幹線が刺繍されたTシャツだ。右胸に秋田新幹線「こまち」、左脇腹あたりに東北新幹線「はやぶさ」、そして、右下に点検用新幹線「ドクターイエロー」が配置されている。Kは、この3つのプラレールを持っている。

なかでも、特に気に入っているのが「こまち」だ。K愛用のストライダー用のヘルメットも、リュックサックも「こまち」モデルである。

宮城県仙台市を走るE6系新幹線
写真=iStock.com/MasaoTaira
※写真はイメージです

新幹線が好きなのはいい。お気に入りの服があるのもいいし、親の目にはKに似合っているとも感じる。むしろ健全に育っているように思えて、うれしいくらいだ。

だが、好きが度を越してしまって、困ってしまう瞬間がある。

それが、朝だ。起こして、朝食を食べさせて、服を着替えさせたら、あとは保育園に送るだけ。のはずなのだが、親の思い通りにはいかない。週に一度ほど唐突にあらわれる“鬼門”が着替えだ。

「新幹線のヤツがいい!」

それまで上機嫌だったKが、突然訴える。

箪笥に入っていれば、Kの要求に応えてあげられるのだが、間が悪いことにKが“新幹線のヤツ”を着たがる日は、大抵、洗濯中か、汚れ物カゴのなかだ。前日にも着たお気に入りを今日も着たいということなのかもしれない。

専門家「自分のこだわりをとても大切にしたい子では?」

「今日は洗濯中だから、トーマスはどう?」

母親は、Kが好きなトーマスのイラストや、救急車などの自動車が描かれたTシャツを提案する。納得してほかのTシャツを着る日もなくはないが、「新幹線のヤツって言っているでしょ!」とまず譲らない。

“新幹線のヤツ”の攻防がはじまると、登園時刻ギリギリになるか、遅刻してしまう日もある。

週一の“新幹線のヤツ”を巡る攻防は、私たち夫婦を疲弊させる。

玉川大学で、乳幼児教育学や保育学、子育て支援の教壇に立つ大豆生田啓友先生は「分かります」と深い共感を示してくれた。

「お聞きすると、お子さんは自分の好きな物に対するこだわりがとても強いタイプではないですか。保育の専門家としては、できるだけその子の『これがいい』という気持ちを大切にしてあげたい。ぼくなら『これも電車のシャツだよ。あとは、これとこれもあるけど、どうする?』と選択肢を与えます。それが、最初に試す正攻法ですね」

大豆生田先生に指摘されるまで、Kがこだわりが特別強い子だとは思っていなかった。そうか。Kはこだわりが強いのか。いままでの彼の行動がなんとなく腑に落ちた。