月2回90分 妻と居合の稽古を受ける

右手の指先を柄つかに添え、鞘を引きながら左足を開いて前へ。切っ先が鯉口から離れる寸前から右足を踏み込み、間を置かず水平に払って一刀。柄が右の掌にしっかりと収まったら左帯に鞘を送り、左手を添えた拳をこめかみに近づけます。立ち上がりながら袈裟に振り下ろし、切っ先が空気を切り裂く音を残して刀が止まる。血振りをしてから切っ先を鯉口に収めて、納刀。

「居合をやってみない?」と誘ってくれたのは、妻でした。子育ての合間に夫婦でできる趣味が欲しいと私が思っていた頃のことです。先に居合を習っていた妻と一緒に地域の居合の稽古に行くことになりました。月2回、先生に90分の稽古をつけていただいています。妻は学生時代、剣道に打ち込んでおり、全国大会に出場したこともある腕前です。先生もなかなか厳しい方ですが、妻からも時折指摘が入ります。

居合の魅力は、削ぎ落とすことで生まれる所作の美しさにあります。足の運び、腰の据え方、呼吸のリズム。余計な力を抜いていくことで、動きが滑らかに整っていきます。ひとつの型には力みも歪みもなく、静寂が全身を包み込んでいきます。一連の所作がひとつに溶け合ったとき、どこに力を入れずとも剣が動き、止まり、すっと鞘に収まるのです。

しかし、理想の所作を完成させるのは、容易ではありません。ひとつの場所に少し力が入るだけで全体の動きが崩れます。「膝の力を抜きましょう」と言われると肘に力が入り、「懐に余裕をつくって」と助言されれば重心がぶれるのです。思うように体が動かず、自分の体がよそよそしい。ちぐはぐな感覚と向き合いながら、流れを整えていきます。

ときおり、すべての動きが調和して型が決まる瞬間があるのですが、その時は迷いなく剣を振れています。思考が消えて、動きだけが残る――。その澄んだ感覚が何とも心地よいのです。とはいえ、一度できたからといって、次も同じようにならないのが、武道の奥深さかもしれません。掴みかけたコツを確実なものにしようと、何度も同じ動きをなぞって、体に覚え込ませていきます。気がつけば額からは汗が滴り、無心で剣を振っているのです。

中世~ルネサンス期にかけて確立した西洋の実戦剣技は、硬い甲冑と強靭な盾で相手の攻撃を防ぎ、力で叩き斬る戦い方です。一方、江戸時代以降に「道」として磨かれた日本の剣術は、攻めと守りのすべてをただ一振りの刀に託します。

人気アニメとのコラボで若者への認知拡大に成功

しなやかな動きで、相手の力を受け流し、流れの中で一瞬の決着をつける。居合を通じて、無駄を削ぎ落とし、本質を研ぎ澄ます価値観に、究極の美しさがあることを実感しました。その美学は、素材の味を引き立てることを重視している日本の食に息づき、私たちの事業にも活かされています。

タマノイ酢は、大阪で設立118年を迎えた酢醸造の老舗です。酢は発酵という自然の力で、素材の味を引き出します。過剰に加えず、素材の本質を活かす点に、居合と通じる「引き算の美学」があります。

酢という伝統的な調味料には、歴史の中で磨かれてきた知恵と工夫があります。そうした価値を今あらためて見つめ直し、受け継ぐ取り組みを進めています。たとえば、1893年のシカゴ万博で名誉金牌賞を受賞し誕生した「名誉金牌タマノイ酢」を、令和版として復刻。過去の醸造技術を現代に活きる形で蘇らせました。

また、私たちは時代の変化に合わせて、酢の可能性を広げる努力も重ねています。健康食品としての価値が見直される中、粉末の「すしのこ」や飲料の「はちみつ黒酢ダイエット」など、使いやすさや飲みやすさに磨きをかけ、現代の暮らしに合った提案を続けています。「ポテトチップス×すしのこ」がSNSで美味しいと話題になった際には公式アレンジとして採用し、また人気アニメとのコラボを通じて、若い世代への認知拡大も実感しています。

(構成=渡辺一朗 撮影=宇佐美雅浩)

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