「為念」「架電にて連絡」伝わらない言葉が蔓延

「あなたの関西弁がわからなくて、内容が入ってこない」

生粋の関西人だった私が東京にある本社の総務・人事部に転属になり、20代の社員向け研修を担当したときのこと。研修を終えた後に回収したアンケートにこう書いてあり、大いに反省したことがあります。

自分では「関西弁は親しみやすい方言だ」と思っていました。しかし、関西弁のテンポの良さもあって、どうやら早口になっていた様子。わからないと指摘されたことはショックでしたが、仕事では「伝わらない」ことのほうが問題です。それ以来、関西弁をなるべく封印して、ゆっくり話すことを心がけています。

関西に行けば、やはりつられて戻りますよ。でも、普段から標準語を意識しているせいか、完全には戻らない。関西の友人からはからかわれますが、それで仕事のコミュニケーションがうまくいくなら安いものです。

岩倉昌弘氏
岩倉昌弘
クラシエ代表取締役会長。関西大学卒業後、1985年に鐘紡入社。旧カネボウ破綻後、2007年にクラシエホームプロダクツ社長執行役員就任。18年にクラシエホールディングス代表取締役社長執行役員に就任。25年1月より現職。

私が「伝わること」の大切さを痛感したのは、クラシエの前身であるカネボウ時代でした。カネボウは、日本を代表する名門企業でした。その自負からか、社内では「格式高い言葉」が飛び交っていました。たとえば「念のため」は漢文風に「為念」と書き、「取引先から電話があった」というメモは「架電にて連絡」と、とにかく漢字が多い。話し言葉も同様に堅苦しいものが多く、入社したばかりの私は「これは日本語か?」と不思議に思ったものでした。

多少難しいくらいならまだいいのです。一番困ったのは、会社の状態が何もわからないことでした。上場企業ですから決算は発表されますが、社員に向けてわかりやすく説明しようという姿勢は一切なし。会社の状況が悪くなり、給与が10%カット、賞与ゼロというニュースも新聞で初めて知りました。伝わる伝わらない以前に、そもそも伝える意思がなかったのです。

破綻して再スタートを切り、43歳でカネボウホームプロダクツ販売の社長に就任したときは、会社の実態は包み隠さず伝えよう、しかも難しい言葉を使わずにわかりやすく伝えようと心に誓い、以降は実践しています。

たとえばクラシエはビジョンを「私たちの明日」、行動規範は「私たちの約束」と呼んでいます。普段使っている言葉で表現したほうが、スッと入ってくる気がしませんか。

クラシエは非上場ですが、経営情報はガラス張りです。経営会議で議論するときはROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)といった経営用語を使いますが、若手と話すときに同じ感覚で使ってはダメ。やさしい表現があればそちらを使い、ほかに適当な言葉がないなら注釈をつけて説明を加えます。

難しい用語が通じる幹部にも、このようにくぎを刺しています。