40年憧れたエレキベースで左手の運指を確かめる
帰宅してほっと一息ついたとき、あるいは休日のリラックスした昼下がり、無意識に愛用のベース「Ex Factor」に手が伸びます。ミディアムスケール(32インチ)のややコンパクトなボディ。左手の運指を確かめながら、一定のテンポで音階をなぞっていきます。リズムと音の粒をそろえることに集中していると、10~15分があっという間に過ぎていきます。肩の力が抜けて思考が軽くなり、スッと前向きな気持ちになれる瞬間です。
高校生のとき、地元のUHF局で「SONY MUSIC TV」の放送が始まりました。金曜深夜23時30分から3時間20分、洋楽のプロモーションビデオを流し続ける番組でした。どの楽曲が放映されるかは、観ていないとわからない。U2やポリスの演奏に目を奪われ、毎週ワクワクしながら画面にかじりついていました。
大学に入ると、レンタルレコード店の雇われ店長として新譜を誰よりも早く手に入れる特権を得る一方で、友人に誘われて軽音サークル「BetterDays」に所属して、バンドを組みました。担当はベース。はじめは興味がなかったのですが、次第に音楽を下支えする低音に魅了されていきました。
1年生の夏、バイクで転倒して膝を負傷し、2カ月間ベッドから動けなくなりました。ほかにすることもないので天井を見上げながら、毎日10時間ほどベースの練習を続けていたら腕前が一気に上がりました。渋谷のライブハウス「クロコダイル」や「LIVE INN」をサークルで借り切って演奏した日々は、今でもいい思い出です。
大学卒業を機にバンドを解散して以降演奏をしたことはないのですが、80年代の音楽を耳にすると、あの頃に憧れていた「ExFactor」への思いが蘇るのです。手に入れれば気持ちの区切りがつくだろうと、中古市場を探しては、出物がなくて諦める。そんなことを10年ほど繰り返した4年前、ついに音楽機材の専門サイトで見つけたのです。休日に上司とゴルフをしていて、クラブハウスで昼食をとっていたときのことでした。何気なくスマホをいじっていると、あったのです。思わず「いた!」と声を上げ、すぐに横浜の楽器店に取り置き依頼の電話を入れました。午後のラウンドは、完全に上の空でした。
このベースは80年代に有名ギターメーカー・フェンダー社出身の設計者フィリップ・クビキ氏がつくった名器で、今見ても驚くような仕掛けがいくつも詰まっています。4弦のチューニングをワンタッチでE(ミ)からD(レ)に下げられる「Drop D Lever」、ボディ側に組み込まれたチューニングキー、9V角型電池2個で幅広い音づくりが可能なアクティブイコライザーなど。80年代の空気をまとったフォルムも、手にするたびに私を夢中にさせてくれます。クラシエのスローガンは「夢中になれる明日」。私にとっては、このベースに触れる時間こそが、明日への活力です。
社員の希望者200人に一人一人会いに行くワケ
社長就任後、まず着手したのは社員の生の声を聞くことでした。「仕事で変えたいことや取り組んでいることを教えてほしい」と呼びかけると、200人近くが手を挙げてくれました。現在は全国の拠点を回り、若手を中心に社員一人一人と向き合っています。その中で、自分の手で会社を変えていこうとする意識の芽生えを感じます。
社名変更から18年、社名認知度は9割近くになりました。日用品事業では「ナイーブ」「いち髪」、薬品事業では「漢方セラピー」「葛根湯」、食品事業では「ねるねるねるね」「甘栗むいちゃいました」など、長く親しまれてきた商品が多くありますが、「クラシエの商品だとは知りませんでした」と言われることが今でも少なくありません。今後は商品の認知度をベースにして「クラシエだから信頼できる」と選んでいただける企業を目指します。
国内では、一般用漢方薬を一度も使ったことがない人が約3割もいます。高齢化や女性の活躍といった社会変化を背景に、薬品事業の拡大を目指します。また、日用品や食品事業は国際事業の強化にも取り組んでいます。23年にはこれら3事業のメーカーを統合、相乗効果を生んでいます。一つひとつのブランドと商品がクラシエの顔となり、その積み重ねが「クラシエらしさ」を形づくる。そこから生まれる信頼と魅力をさらに高めていきます。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2025年7月18日号)の一部を再編集したものです。
ここから先は有料会員限定です。
登録すると今すぐ全文と関連記事が読めます。
- 広告最小化で快適な閲覧
- 雑誌『プレジデント』が最新号から読み放題
- ビジネスに役立つ学びの動画が見放題
- 会員限定オンラインイベント
検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます



