サラリーマン稼業には飲み会が多い。しかし、小遣いは減る一方だし、家事もしなければならない。先輩や上司の気分を害さずに断る方法はないだろうか。田中康之氏は「肝臓を擬人化して肝臓のせいにする」という変化球を教えてくれた。
「僕はすごく飲みにいきたいんですけど、このひ弱な肝臓がいうことをきかないんです。コノヤロ、コノヤロ!」と、必死の形相で自分の腹を殴るフリをする。
この手法は「業務を断る」などにも応用できる。「この頭がもう少しよかったら……。コノヤロ、コノヤロ!」。
やりすぎると変人だと思われるので注意が必要だ。
なお、斎藤由香氏(サントリー社員・エッセイスト)は「飲み会」にこそユーモアの源泉があるとして、「飲みニケーション」の大切さを強調する。「サントリー社員だからお酒を勧めるわけではありません(笑)。飲みの場には笑いと本音があります。疎ましかった上司の意外な一面がわかって仲良くなれることも」。
「窓際ОL」を自認する斎藤氏にとって、仕事の99%はつらくて大変なもの。給料は苦労とガマンの見返りだという。
「でも、残りの1%がすごく楽しい。その1つは同僚と飲み交わすことでしょう。個人で働いている人には味わえないサラリーマンならではの醍醐味があります」
思い通りのキャリアを歩める幸せな人は実際にはほとんどいない。多くの人がやりたくもない業務をがんばっているのだ。その哀愁漂う日常から大人のユーモアが生まれてくるのだろう。
サントリーには長年赤字だった事業も少なくない。数年前に「プレミアムモルツ」のヒットでようやく黒字転換を果たしたビール事業は、創業以来45年以上も赤字だったことは有名だ。
「現在ハイボール人気で好調のウイスキーも、厳しい時代が20年続きました。でも誰もめげず『いつかはお客様にこの味を理解していただける』という夢と、希望があった。会社は熱気と笑いに満ちていました。それは今でも変わりません」
サントリーの強さはユーモアと笑いにある、と言えるかもしれない。
働く場所は楽しいほうがいい。国内市場のパイが小さくなり、給料も右肩下がりになりつつある現在、笑いを害悪だと見なす会社に明るい将来はない。にぎやかな笑いが飛び交う営業本部、静かだが穏やかなユーモアに包まれた研究開発部など、職種や業種ごとに違いはあるだろう。しかし「信頼関係に基づいた内輪受けユーモア」の価値は不変である。
成城大学卒業後、サントリーに入社。健康食品事業部時代にスタートした週刊新潮の連載「窓際OL」シリーズは10年目に突入。特技なし、酒量はウイスキー1本。著書は、祖母で歌人・斎藤茂吉の妻の輝子の生涯を描いた『猛女とよばれた淑女』『窓際OL人事考課でガケっぷち』ほか。 リンクアンドモチベーション モチベーション研究所所長 田中康之
1976年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、野村証券を経て、2001年リンクアンドモチベーション入社。2010年より同社の研究機関であるモチベーション研究所の所長を務める。モチベーションの源泉は「パン+α」。