立食式のパーティで見知らぬ紳士と一緒になった。テーブルにあったワインの瓶を持ち上げ、にっこりと一言。
「こっちのワインがうまいですよ」
三木卓氏は、こうやって話のきっかけをつくるという。あるいは、
「今日はあそこに美人が来ていますね」
ビールを注いでもらいながら、会場の奥を見やったりする。
名刺を交換したら、相手の姓名を確かめて、
「おや、この名字は鹿児島ですね」
谷元、枝元など「もと」を元と書く姓は鹿児島など南九州に多いという。そのことをきっかけに、ふるさと談議に入れるのだ。
「もし違っていても、そうやって会話ができれば話がほぐれていきますね。もちろん、相手に付き合ってくれる気持ちがなければそれまでですが」
問題はそこである。三木氏の表現を借りれば、「会話は一種の共同作業」。相手しだいで弾むこともあれば、沈むこともある。こう考えたらどうだろう。
「パーティでは『みんな楽しい』という感じをつくっていくのがいいんです。主催者はもちろん、参加者も一緒になってそういう方向へ持っていく。大きくいえば日本人の社会が少し明るくなったり、少し楽しくなったりしたほうがいい。大事なのは、『少し上向き』にしていこうとすることです」(三木氏)
ココイチ創業者の宗次氏も同じ意見だ。
「とにかく笑顔ですね。会った瞬間、お互いに感じるものがありますから。とくに笑顔で元気に握手をしてから会話に入るような場合は、笑いのある雰囲気のなかで話ができます」
笑顔とともに大切なのが「気配り」だ。苦労人の宗次氏は、人と会うときにも、講演で使うような少々「寒い」ギャグを繰り出すことがあるという。
「私に対して負い目を感じているな、引け目を感じているなという人には、和んでもらうために、くだらないことを言いますね。逆に、自分より強い立場の人には、気を使うことはありません」
大物経済人の宗次氏がパーティに出席すると、どうしても名刺交換をしたがる人の行列ができる。そんなとき、ずっと待っていた人には「お待たせしました」と一言わびてから話しかける。宗次氏もかつて大物に待たされた記憶があるからだ。これもまた「引け目を感じている人」への気配りである。
1948年生まれ。生後すぐに孤児院へ預けられ、宗次家の養子に。愛知県立小牧高校卒業後、大和ハウス入社。その後独立し、78年カレーハウスCoCo壱番屋創業。98年会長、2002年より現職。07年クラシック専門の宗次ホール設立、代表に就任。著書は『日本一の変人経営者』ほか。
詩人、作家 三木 卓
1935年生まれ。幼年期を満州(中国東北部)で過ごす。59年早稲田大学文学部露文科卒。71年『わがキディ・ランド』で高見順賞、73年に『鶸(ひわ)』で芥川賞、97年『路地』で谷崎潤一郎賞など受賞歴多数。99年紫綬褒章、2011年旭日中綬章を受章。児童文学も多く手がける。