自分は気を利かしているつもりでも、周囲の人間から見たら、実は気の利かない人間だったり……。その原因に心理学の立場から迫る。
「それがすべてだとはいいませんが、気配りは保険営業の成否を決める重要な要素です。しかし、なかにはどうしても気が利かない、気を配れない営業の人がいるのも事実です。お客さまの状況や気持ちを慮りながら、それに合わせた適切な行動ができないのです」
こう語るのは第一生命保険・特選営業主任の柴田知栄さんだ。特選営業主任は約4万人いる同社の営業職員のうちトップクラスの者に与えられる役職で、柴田さんは1999年から11年連続で契約高トップを記録している。実は柴田さんの母親は、やはり同社の営業職員で「日本一の生保外交員」としてギネスブックに載ったことのある柴田和子さん。気配りと血筋は、何か関係があるのか。
「いま振り返ってみると、子どものころから家庭の至るところに、目配り、気配り、心配りがありました。そうした環境が影響しているのかもしれません」と柴田さんはいう。実際に日々の躾をしてくれたのは、仕事で忙しい母・和子さんに代わり、同居していた明治生まれの祖母で、次のようなことを教わったそうだ。
「人にはは十二分に尽くしなさい。逆に、自分が何か人から尽くされるときは八分で満足しなさい。人は十二分に尽くされて初めて十分と感じ、尽くされた自分が八分と思えたときに人は十分に尽くしたと感じているからだというのです。たとえば、セールスマンが飛び込み営業で家にきても、買う、買わないにかかわらず、祖母は必ずお茶を出していました。きっと、母と同じ営業をしている人に優しく接したい気持ちもあったのでしょう」
そうした幼児期の記憶や経験の受容性を発達心理学の立場から指摘するのが、企業のメンタルヘルスや人材育成をサポートするEAP総研でコンサルタントを務めている錦織ひとみさんだ。
「気が利くという能力は、ある日突然に出来上がるものではなく、近接領域の能力が1つひとつ発達していきながら身についていきます。ですから、幼児期に『誰かがこんなことをして、とても喜ばれていた』とか、『こんなことをしたら、お母さんに褒められた』などの記憶や経験を積んでおくことはとても大切です」