交流分析の活用で売り上げ実績が30倍に

たまに「気が利くか利かないかは生まれつき。後から変えようがない」といった声を耳にする。しかし、EAP総研コンサルタントの錦織ひとみさんも、心理学者の伊東明さんも、「ビジネスパーソンとして必要十分なレベルまではトレーニングすることができます」と断言する。

そんな事例の1つが、人の心と行動を分析して快適な人間関係を築く心理分析の一手法である交流分析を用いながら、自動車ディーラーの女性スタッフ約100人を対象に行った営業研修のケースである。当初、女性スタッフは来店した顧客の案内など補助的な役割しか与えられておらず、彼女たち全員の年間の売り上げ実績たるやわずか10台程度だった。

そこで講師を務めた日本生産性本部の平田しのぶさんは、まず人間には「親」「大人」「子ども」という3つの自我状態があることを教えた。そして、相対した顧客はどの状態が強い人かを判断し、親の自我の強そうな顧客なら、その人の意見は尊重するよう注意するなど、おのおのの特性に合わせた営業を行うよう指導した。「すると3カ月後には、売り上げ実績が300台を突破しました」と平田さんがいうから驚きだ。

また、自分の感情をコントロールする能力の1つで「心の知能指数(Emotional Intelligence Quotient)」と呼ばれるEQの診断を利用して営業幹部の人材育成を図っているのが人材サービス大手のアデコである。人材開発会社ワンアソシエイツの社長でEQの活用に精通している早勢弘一さんと協同で研修プログラムをつくり、全国に約200人いる支社長、エリア長を対象に4年前から開始した。

プログラムは大きく3段階に分かれ、実際にEQの診断が行われるのは第2段階の「ダイアログ」と名づけられたプログラムのなかで。診断で「対人問題解決力」「共感的理解」といった自分の行動特性に関する強みや弱みがデータとして示される。「なかには結果を見てショックを受ける人もいます。しかし、最も大切なことは自分を知ってもらうことです」と同社人事本部長の久田圭彦さんはいう。

もう1つ、このプログラムのユニークな点は、支社長ならその支社内の人間関係マップを、「A君とB君は仲がいい。でもC君とA君との間はちょっと……」というように本人に描かせるところ。そして、診断で判明した自分の行動特性とどう組み合わせていけば、組織内の調和をうまくマネジメントしていくことができるのかを考えさせる。

具体的には3人1組になって、不仲であるA君役とC君役の人間が信頼関係の構築に向けた取り組みをロールプレーで行い、もう1人が第三者として評価する。それを役割分担を変えながら繰り返していくうちに、リーダーとして部下にどう気を配っていったらよいのかがわかってくる。

「人材派遣を含めた雇用環境に厳しさが増しているのにもかかわらず、各支社のモチベーションは確実にアップしており、研修の成果の表れだと考えています。単に叱咤激励するだけでなく、現場のリーダーが部下の心理状態を見極め、彼らの声に耳を傾けるようになっており、これからいい結果を生んでくるはずです」と久田さんは期待を寄せる。