職場にはいろいろな人がいる。気の合う人ばかりとは限らない。カチンとくる言い方をする同僚、失礼な発言をする上司などと、いちいち衝突してはいられない。ユーモアを交えて、相手も自分も傷つけずに、うまく回避する方法はないだろうか。

「かわいい人ならば『それ以上言ったら、あたし泣いちゃいますよ。ウェーン』と泣き真似をするのもいいでしょう。しかし、僕がやったら殴られるのが落ち」

さきほどと同じような前振りで取材陣を笑わせてくれる田中康之氏。自分のキャラクターを考えると、聞いてなかったフリをするのがいいのではないかと自己分析する。

「フムフムフム、ところで先ほどの件ですが……。あれ、いま何か言いました?」

失礼な発言に対して「のれんに腕押し」の態度を貫くことで、相手の戦意を喪失させる。無視するのではない。にこやかにとぼけ切るのだ。ユーモアの応用編ともいえる高度テクニックである。

男女雇用機会均等法第一世代である斎藤由香氏は、田中氏のように練れた男性に比べて女性はユーモアを苦手とする社員が多いと指摘する。

「とにかく真面目で全方位に感じよくしようと頑張ってしまう。誤解されたくないし、陰口も気になる……。特に私たちの世代は女性のロールモデルがいません。母親は専業主婦なのに、自分は初の女性マネジャーになり、仕事も人間関係も100%頑張る。後輩女性の模範でありたいから失敗も許されない。さらにはダイエットもする(笑)。背負うものが大きいんです」

精神的なゆとりのなさが女性からユーモアを遠ざけているのかもしれない。

一方の田中氏は、別の要因を指摘する。男性たちが女性が入りにくいような「男性だけの内輪受けユーモア」を交わしている職場もある、というのだ。風俗ネタなどは典型だろう。

そもそも、長期的な人間関係と豊富な共有体験を基盤とする職場のユーモアは、「内輪受け」で構わない。性別などという矮小なカテゴリーに留まらず、新たな「内輪」を探し出して、共通のユーモアを見つければいいのだ。あるプロジェクトで出合った個性的な取引先の物真似、法務部員でしかわからない法律用語でのジョークなど、内輪の輪が小さければ小さいほど面白さが増すものだ。

「うちの会社でも『金属はなぜ青くならないか』といったテーマで盛り上がっている集団がいます。僕にはさっぱり面白さがわかりませんが……」

このような仲間では下ネタ好きの男性などは疎外され、理系女子が大いに歓迎されるだろう。共通の専門分野や趣味があれば、年齢や性別を超えたユーモアの輪をつくり出すことができるのだ。

エッセイスト 斎藤由香
成城大学卒業後、サントリーに入社。健康食品事業部時代にスタートした週刊新潮の連載「窓際OL」シリーズは10年目に突入。特技なし、酒量はウイスキー1本。著書は、祖母で歌人・斎藤茂吉の妻の輝子の生涯を描いた『猛女とよばれた淑女』『窓際OL人事考課でガケっぷち』ほか。
リンクアンドモチベーション モチベーション研究所所長 田中康之
1976年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、野村証券を経て、2001年リンクアンドモチベーション入社。2010年より同社の研究機関であるモチベーション研究所の所長を務める。モチベーションの源泉は「パン+α」。
(的野弘路=撮影)
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