Q まだ大学生ですが、質問させてください。私はなぜか今まで上級生や先生から可愛がられた記憶がありません。社会人になれば、これまで以上に先輩や上司との関係が大事になると思います。どうすれば目上の人から可愛がられるようになりますか。(大学生、女性、21歳、入社前)


A すごくいい質問ですね。それも入社前に聞いてくるところが素晴らしい。なぜなら若手にとって大切なポイントでありながら、会社で「可愛がられ方」を教えてもらえるチャンスは意外に少ないからです。

仕事について失敗すれば、みんなが注意してくれる。でも「可愛がられ方」について失敗しても、誰も注意してくれません。

言いにくいことを言うのが上長の仕事と分かっている人でも、先輩や上司にしてみれば、仕事と関係ない後輩の言動について注意することで、嫌われるかもしれないし、細かい人だと思われるかもしれない。お互いの関係が険悪になる可能性もあるから、いちいち注意したくない。

具体的な例を挙げれば、先輩と後輩が2人で飲みに行って、先輩が勘定を支払ったとしましょう。それなのに後輩がご馳走になったことについて何も触れずに「お疲れさまでした」と言って帰っていったとしたらどうでしょう。先輩としては、別にお金が惜しいわけではないけれど、ちょっとひっかかる。

「こいつ、まさか社外の人にもこんな態度をとってるんじゃないだろうな」

と心配になったりもする。

「『こういうときは、お礼を言うもんだ』と教えてやったほうが本当は親切なんだろうけれど、でもそれを言ったら自分がケチなやつだと思われそうだし……」

と悶々とした挙げ句に言葉を飲み込む先輩諸氏も少なくありません。

だからいつまでたっても本人は失敗に気づかず、ちょっと失礼なことを繰り返す。そして理由がわからないままに、歳を重ねてしまうわけです。

可愛がられる若手とそうでない若手の差はどこにあるのか。それはズバリ、礼儀正しさです。

顔を合わせたら大きい声で挨拶するとか、ご馳走になったらお礼を言うとか、書籍を借りたら感想を添えてお返しするとか、その程度のことさえちゃんとできていればいい。しかしその程度のことがけっこう難しいのです。

自分ではそこそこできているつもりでも、世間のレベルからみれば最低の合格ラインにも達していないということはよくあります。あなたがいままで目上の人によくしてもらった記憶がないというのは、そのせいではないでしょうか。

たとえば先輩がご馳走してくれたとしたら、どんなふうにお礼を言いますか?

「ご馳走さまでした。ありがとうございました。さすが先輩はうまい店知ってますね。肉がとっても軟らかくておいしかったです」

みたいな気の利いたことは言えなくていい。

お世話になった上司や先輩にお礼を言うときの必殺技は、「お礼3回の法則」です。「お礼は必ず3回言う」というルールを自らに課してみてください。

何かをご馳走になったとき、普通の人は、会計の直後に1回お礼を言えば十分だと思っている。相手とそれなりの信頼関係が構築できていたり、言葉選びができる人はそれで十分かもしれません。ただ、そうでない若手は、それに加えて帰りの電車の中や帰宅後に、ご馳走になった先輩にメールしてもう一度お礼を言う。

そしてダメ押しとして、次に先輩に会ったときにもう一度、「昨日は(先日は)ご馳走様でした」と言うのです。ここまでする人は社会人経験が長い人でもなかなかいませんから、「なんて礼儀正しいヤツだ」ということになります。1回ずつの言葉はたいしたことがなくても、3回合わせると気の利くベテランの1回分以上の効力を発揮するものです。

たとえおごってもらったものが数百円の牛丼だろうが、どうせ会社の経費として落とす飲み会であろうが、どんなときでもお礼は3回言うと決めて実行すれば、いちいち「この場合はどうだろう?」と悩まなくていいから自分も楽です。

そのうち経験を重ねると、1回で必要にして十分なお礼が言えるようになるでしょうし、相手からもらいっ放しにしておくこと自体が気持ち悪くなります。自分が相手から何かを受け取る量が圧倒的に多い若いうちは、とにかく3回お礼を言うというように自分なりのルールをつくって、与える側とのバランスを保ちましょう。

こういうことは会社に入ったからといって、急にできるようになるものではありません。入社前の今から、何かしてもらったら3回お礼を言うことを心がけてみてください。

手間がかからない割に効果があることです。目上の人たちのあなたを見る目は、明らかに変わるはずですよ。

※本連載は書籍『プロフェッショナルサラリーマン 実践Q&A』に掲載されています(一部除く)

(撮影=尾関裕士)