競合の「赤缶」を超えるため、はじめて「緑缶」を投入

アース製薬は虫から人の健康を守る「虫ケア用品」で約57%のシェアがあります。他の工業製品を見ても、1社でこれだけのシェアを持っているのは、珍しいかもしれません。

今回お題をいただいて「なぜそれがやれたのか」を考えてみたのですが、ずばり「これだから」という答えをお示しすることはできません。製品開発、マーケティング、ブランド戦略、営業や宣伝の努力など、いろいろな要素の「掛け算」で、お客様に選んでいただいている結果だと思います。

【写真】川端克宜氏
川端克宜(かわばた・かつのり)
アース製薬社長。1971年、兵庫県生まれ。近畿大学商経学部(現・経営学部)経営学科卒業後、94年アース製薬入社。役員待遇営業本部大阪支店支店長、取締役ガーデニング戦略本部長などを経て、2014年から現職。

と言ってしまうと掴みどころがありませんので、一つ具体的なエピソードをお話ししたいと思います。

私が営業で走り回っていた2010年前後は、まだ虫ケア用品のシェアは50%を超えていませんでした。大塚達也社長(現会長)は目標に掲げてはいましたが「5割の壁」は難関でした。47~49%の間での「行ったり来たり」があまりに何度も続くので、「50%を超えるなんて無理なんちゃうかな」と弱気になったこともありました。

当時も業界1位ではあったのですが、2つの製品カテゴリーでどうしても崩せないライバルの牙城がありました。ハエ・蚊用とゴキブリ用エアゾールの殺虫剤です。

今でも強力な競合なので具体的な社名と製品名を挙げるのは控えますが、多くの方が思い当たると思います。ハエ・蚊用の青い缶と、ゴキブリ用の赤い缶の製品です。両ブランドはあまりに強力で、我々は長年その後塵を拝し続けていました。

そうした中、1995~97年に、巻き返しの糸口となる転機がありました。まず95年に「トリガーノズル」(引き金型の噴射装置)で従来比3倍まで噴射力を高めた「ゴキジェット」を、96年にハエ・蚊用の「アースジェット」を発売しました。

パッケージでも革新性をアピールしようと、アースジェットに赤、ゴキジェットに緑のカラーを採用しました。それまで競合他社の影響もあり「ハエ・蚊用は青」「ゴキブリ用は赤」でなければお客様に殺虫剤と認識されないほどだったので、かなり思い切った挑戦だったのを覚えています。

さらに97年には、より速効性の高い駆除成分イミプロトリンを配合して、「秒速ノックダウン」と「集中ジェット噴射」の効果を可能にした「ゴキジェットプロ」を発売しました。

業界では当時、春夏の新製品の発表は1月に行われるのが慣例でしたが、「ゴキジェットプロ」を発売したときは認可が下りてすぐ、夏期商戦真最中の8月の発売に踏み切りました。「いい製品は一刻も早くお客様に届けたい」という真摯な思いと、製品に対する絶対の自信があったからです。