業績絶好調なのに危機感を抱いたワケ

「小売業界におけるデジタルの先駆者」。カインズは、よくそう言われます。確かに私が社長に就任した2019年以降、数え切れないほどのデジタル施策を導入してきました。売り場・在庫検索マップ「ファインド・イン・カインズ」、暮らしに役立つオウンドメディア「となりのカインズさん」などはお客さまからも大好評で、公式アプリの会員数は300万人を超えました。20〜24年の4年間で売上高は1000億円以上伸び(ハンズ含む)、業界首位を走り続けています。

ただ、誤解のないように言うと、我々は初めから「デジタル改革」を決意したわけではなく、あくまで改革の入り口にデジタルを選んだにすぎません。

その背景にあったのは、業界への危機感です。私がカインズの取締役に就任した16年当時を振り返ると、ホームセンター市場規模は06年に初めてマイナス成長となり、その後も4兆円の手前で足踏みを続けていました。その中で各社は出店競争を繰り広げ、限られたパイの奪い合いをしている状況でした。人口減少がますます加速する中、全体のパイを拡大していかない限りホームセンターの成長は頭打ちになる――それは私だけではなく、誰の目にも明らかなことでした。

当社の業績が低迷していたわけではありません。むしろ、ほかのチェーンにはないオリジナル商品の販売が好調で、毎年増収増益を続けていました。でも、本業の調子がいい今だからこそ、新たな顧客を開拓するための改革をやるべきだ。その思いは前社長(現会長)の土屋裕雅とも一致していました。

では、改革をどう進めるか。そのヒントを探るべく、土屋と2人で海外視察に出ました。小売業界だけでなくアマゾンやグーグルなどにも話を聞いて回る中で、一つの確信を抱きました。これからはデジタルにどんどん投資して消費者の行動を変えていかなければ、小売業は生き残っていけない、と。

そして18年、カインズは「IT小売業宣言」を行い、ITを駆使して新しい価値を生み出していく、とのメッセージを社内外に打ち出しました。

我々はITを何に使うのか――番大切なのは、やはりお客さまの体験がよくなることです。私たちの本業は、ホームセンターのリアル店舗を経営すること。リアル店舗での顧客体験を変えることで、これまでのお客さまに喜んでもらえるだけでなく、新しいお客さまも店舗を訪れてくれるはずです。まずは経営陣が、改革の切り口を4つ考えました。

店内での買い物の煩わしさを解消する「ストレスフリー」。お客さま一人一人の来店動機や困りごとに対応した提案を行う「パーソナライズ」。店舗の外でもお客さまとのつながりを持ち、暮らしをサポートする「コミュニティ」。売り場でのワクワクするような体験をお客さまに提供する「エモーショナル」。この4つです。

カインズ(朝霞店外観)

ただ、足元の業績が好調なときにトップが突然「これからはデジタルだ」と言うものだから、当初は多くの社員がキョトンとしていました。事実、本格的に改革に着手してから19年に第1弾のサービス「ファインド・イン・カインズ」をリリースするまでは約8カ月の期間を要しました。でも、この新たな機能によって、お客さまからは「ほしい商品がすぐ見つかって便利だ」と感謝され、店頭メンバーの仕事の効率も上がった。「デジタル活用とはこういうことか!」と社員が気づき、社内の空気が一気に変わりました。