「リコーダーがふけない」意外な理由
「うちの子、手先が不器用なのか、リコーダーの音がカスカスで……」
中2の娘さんのことを話しながら笑う母親に、僕は直言しました。
「それは手先の問題ではなく、身体機能の問題かもしれません」。
リコーダーを吹くには、唇を丸くすぼめ、息を唇に集中させて吹き込み、その状態を維持する必要があります。
しかし、中学生であっても口腔機能が未発達な場合、唇周囲にある筋肉(口輪筋)が弱く、本人の意思とは無関係に隙間から息が漏れ、維持することができません。これをテニスに例えると、いくら練習(努力)しても、ラケットのガットが緩んでいる状態。道具(身体能力)が原因で良い結果が出せないのです。
実際、このお子さんに、唇の力を測定する簡単な検査(保険適用)を行うと、基準値を大きく下回る結果でした。
そして、これは音楽の問題に留まりません。学業、運動、さらには全身の健康など、長期的な影響を及ぼす可能性があるのです。
2018年に病名指定された“お口の症状”
以前は「子供の口の中の問題」といえば「むし歯」と「歯並び」でした。しかし、現場の歯科医師の間では、2010年にはすでに「お口ポカン」や「丸飲み」「口呼吸」「舌足らず(構音障害)」などの急増が問題視されていました。
その声の高まりから、2018年、厚労省によって「明らかな機能障害がなくても、発達が十分でない状態」について、「口腔機能発達不全症」という病名が正式に認められ、保険診療の対象となりました。
これは「食べる」「話す」「呼吸する」といった、人間が生きるために基礎的な口腔機能が年齢相応に育っていない状態です。
ただし、全く「食べられない」「話せない」「呼吸できない」わけではないため、「成長が遅いから」「個性だから」と見落としがちになります。
では、なぜこの状態を病気に指定したのか?
それは、この機能発達不全が生活を通して自然に治るものではないからです。さらに適切に介入しなければ、生涯にわたって影響を及ぼします。
口腔機能は成長期に「獲得」するものであり、十分に獲得できないものに対して「口腔機能発達不全症」と診断します。対象は18歳未満の子供です。
口腔機能は中年期(概ね50歳以降)に衰えはじめ、十分に機能できなくなったものに対して「口腔機能低下症」と診断します。しかし、成長期に口腔機能発達不全症を放置すると、早期にこの病気になる可能性があるのです。

