「静岡県のメリット」もいまだ示されていない

岸田首相はリニア沿線知事に「国家プロジェクトとして1日も早い全線開業に向けた取り組みを進める」と述べた。「国家的プロジェクト」ではなく、整備新幹線と同じ「国家プロジェクト」の位置づけのようだ。

ただ「国家プロジェクト」で何をするのか全く見えない。

環境影響評価手続きを大幅に短縮できなければ、工事着手はできない。

国が、JR東海に品川―名古屋間のリニア建設の指示をしたあと、環境影響評価書の公告までに約3年掛かっている。

もし、2037年開業を標榜するならば、環境影響評価の手続きを大幅に短縮するしかないが、本当にそんな荒業が可能か、疑問が多い。

実際にはリニア問題に対して、岸田首相の無責任さが際立っている。

昨年1月4日、岸田首相は「リニアの全線開業に向けて大きな一歩を踏み出す年にしたい」と宣言した。

未着工の静岡工区に触れて、地元との調整、国の有識者会議の議論を積極的に進めていくとした。

その切り札として、リニア問題の解決を念頭に、リニア開業後の東海道新幹線駅の停車頻度の増加についてシミュレーション結果などから「静岡県のメリット」を示したいと発言した。

昨年10月、国交省は「静岡県のメリットを示す」報告書を発表した。

JR東海のリニア紹介パネルの一部
筆者撮影
JR東海のリニア紹介パネルの一部

リニア開業によって、のぞみの需要が3割程度減ることを想定して、静岡県内の駅のひかり、こだまの停車数が1.5倍程度に増えることを予測した。

これによって静岡県外からの来訪者増など地域にもたらす経済波及効果を1679億円と試算、雇用効果は年約15万6000人を生み出すとしている。

他にも企業立地や観光交流など地域の活性化への期待などもあるとしている。

この報告書に対して、川勝氏は「10カ月も掛けてやられたことに、お粗末であり、あきれている」、「1.5倍にすれば、どれだけになるかと算数の計算を、子どもにさせるようなことを、大官僚組織がやるほどのことかと改めて思う」など「お粗末」を計4度も繰り返して、徹底的にけなした。

この件では、ほとんどの県民が川勝氏を支持した。

リニアが開業すれば、ひかり、こだまが増えることは当たり前である。

岸田首相の政治力で、ひかり、こだまの本数が増えることを見せても、「静岡県のメリット」だと誰も納得しない。

それで、静岡県のリニア問題を解決させようとする発想のあまりの貧困さにあきれてしまった。愚策以外の何ものでもない。

無責任な発言は全線開通を遅らせるだけ

結局、国交省はムダな仕事を1つ増やしただけで、何ら実効性のない報告書をつくっただけである。

今回も、岸田首相は「国家プロジェクト」として、「2037年全線開業の実現」をアピールするだけで、実際の中身はなく、リニア推進のムードを盛り上げる意図だけが透けて見える。

新聞紙面を恣意的に使った岸田首相のごまかしを見抜けないほど国民はバカではない。

日本国をバックにした岸田首相による茶番劇を見ていれば、リニア問題の解決どころか、新たな難題が出てきて、全線開業など夢のまた夢となるだろう。

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