とうの昔に否定された『三歳児神話』に基づいて、低年齢時の保育所利用は今も否定されがちだ。小児科医の森戸やすみさんは「三歳児神話に振りまわされず、個々の生活や事情に合わせて利用してほしい」という――。
モダンな幼稚園教室の内部
写真=iStock.com/imaginima
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未だ話題となる「三歳児神話」

先日、インターネットテレビ局・ABEMA(アベマ)の「ABEMA Prime」という報道番組に出演しました。この番組では、子育てに関するさまざまな問題や課題について放送していて、今回は働く女性が増えている現代において早期から保育所を利用するのは是か非かという観点で「三歳児神話」について話してほしいということでした。

三歳児神話とは「子どもが3歳になるまで母親が家庭で養育しないと、その後の人格形成や能力発達に悪影響がある」とする考え方です。発端となったボウルビィの報告書では、母親が外で仕事をすることを否定したものではなく、「3歳未満の発達初期に戦争などで悲惨な体験をすると精神的な傷害を受け、生涯その傷を癒やせず、後々まで社会的不適応行動を形成することがある」という研究でした。そして、厚生労働省が1998年の「厚生白書」で、三歳児神話には「少なくとも合理的な根拠は認められない」と言及し否定しています。

なぜ私に依頼が来たのかというと、番組スタッフの方が当連載の「0歳から保育所に預けるのは「母親失格」なのか…悩む親に小児科医が語る“保育のすごい効用”」という記事を読んでくださったから、ということでした。この記事は「今や共働き世帯は、専業主婦世帯の2倍。各家庭で育児環境も経済的環境も職場環境も違ううえ、個人的なことなので他人がよいか悪いかを決めるのはおかしい。すでに否定されている三歳児神話にとらわれる必要はない。保育所のメリットも多数ある」という内容です。その考えは今も変わらず、とても大切なことだと思ったので出演させていただくことにしました。

神話にすぎないのに大切⁉︎

テレビ番組は視聴者にわかりやすいよう、2つの意見を対立させる方法を取ることがありますね。今回は「0歳から保育所に預けることは親失格なのか?」をテーマに、元教育委員長で子育て評論家の方が「三歳児神話賛成」、小児科医である私が「三歳児神話否定」という立場で意見を交わすことになりました。

三歳児神話賛成派としての考えは「国連の子どもの権利条約だって、乳幼時期は親を知り親と過ごす権利が(子どもに)あると書いてある」「0歳、1歳、2歳は母ちゃんと一緒にいたいでしょ。それくらいちゃんと考えろよって」とのことでした。前者については同意しますが、後者はなぜ母親に限るのか疑問です。そしてお子さんを保育所に通わせていても、担任の先生方との愛着はもちろん、親子の愛着を築くことは間違いなく可能です。朝晩や休日などにしっかり関わる保護者のほうが多いでしょう。保育所に通うかどうかではなく、どのような保育所にどう通うかという問題ではないでしょうか。

そして「三歳児神話は神話にすぎないが、大切に守らなければいけない」という意見には疑問を感じます。番組内でもお伝えしたのですが、保育所問題に限らず、「子育てはこうすべき」と他人に強く伝えるのであれば、明確な根拠が必要でしょう。個人的な価値観を押し付けられても困ります。神話は、根拠にはならないのです。