「保育の質」は制度の問題
家庭での保育がよい理由として、母親が子どもを早く保育所に預けて働けるようにするという雇用政策のために保育の規制緩和が行われ、保育所や保育士の質が担保されていないということが挙げられていました。子どもが安全に育つために保育士の質を担保する、保育所の質を保つということは確かに大切です。目的が雇用政策でもなんでも、仕組みとしてよりよいものにすべきなのは当然で、保育所が心配だから母親が育てるべきというのは違います。
例えば、流山市では自治体が手当をつけることで保育士の給与を増やし、保育士不足などを解消しています(※1)。明石市も第2子以降は幼児教育・保育の無償化をするとともに、事業者や保育士に対しても補助金を出したり研修をしたりしています。そういった子育て支援政策を行う自治体には、子育て世帯が増加しているのです。
また、いずれにしても、入所前に保育士と面談する、保育所の下見をするなどして安全性を確認することは大切です。「11時間が標準保育だというのがいけない」という意見も出てきましたが、0〜3歳の子どもを毎日7時から18時まで預ける親はどのくらい存在するでしょうか。もしも多数いるとしたら、長時間労働が強いられがちな社会のあり方、それぞれのお父さんやお母さんが仕事面、経済面、精神面など、なんらかの問題を抱えていて支援が必要だということも考えられます。非難すれば解決するわけではありません。
※1 流山市公式サイト「保育士就職支援制度」
保育所利用率が上がっても悪くない
番組中で「教師の精神的疾患が増えている」という話が出てきましたが、それは保育所に通っていた子どもたちが大きくなって学校で問題を起こしているからではないでしょう。学校の1クラスの人数が多くて教員による管理が難しかったり、教員の業務量が多すぎたり、社会や保護者から教員への期待や要求が年々高まっているためではないでしょうか(※2)。保育所の利用率が上がったからといって、教師の精神的疾患が増えたとか、学級崩壊が増えたといった事実はありません。
そして、もちろんのことですが、若年者の非行率や犯罪率が上がったり、子どもが悪くなったりもしていません。事実、私の印象だけでなくデータとしても非行率は下がり、犯罪率も下がり(※3)、高等教育を受ける割合は増えているのです(※4)。
さらには乳幼児、児童・生徒の健康状態が悪くなったりもしていませんし、日本人の平均余命は伸びています。なお、共働き率の上がった今、小児を外来につれてくる保護者は母親だけという時代ではなくなり、土曜日は父親のほうが多いこともあります。外来でお子さんの様子を教えてくれる人は、母についで父が多く、次に祖母、祖父・ベビーシッター、おばやおじと続きます。そんな中で育った子どもたちは幸せそうです。
※2 教職員のメンタルヘルス対策検討会議「教職員のメンタルヘルス対策について (最終まとめ)」
※3 犯罪白書(令和元年版)「少年による刑法犯の検挙人員及び人口比の推移(昭和41年以降)を年齢層別に見ると」
※4 文部科学省「大学入学者選抜関連基礎資料集(その3)9.大学入学者数等の推移」