世界の要人と、通訳なしで交渉を成し遂げてきた孫正義氏。発音はカタカナで、使用する単語は中学学習レベルだという。なぜ通じるのか?
孫正義、大谷翔平、ジャック・マー……中学英語で世界と渡り合うコツ

プレゼンで使うのは中学レベル1480語

私はかつてソフトバンクの社長室長として、孫正義さんの側で働いていました。アメリカ出張に同行して孫さんの英語のスピーチを聞き、ヤフー!のジェリー・ヤンさんやアマゾンのジェフ・ベゾスさんとのミーティングに同席しました。

孫さんは通訳を介さずに商談をしますが、使う英語は単語や文法が中学生レベルで、発音もいわゆるカタカナ英語です。なのに、どんな相手にも通じるばかりか、説得する力を持っています。iPhoneを日本で独占販売する権利を得たときも、孫さんはアップルのスティーブ・ジョブズさんと直に交渉したのです。

孫さんの英語プレゼンテーションを分析したところ、使っていた単語は1480語にすぎませんでした。ちなみに現在の学習指導要領では、小学校・中学校で約2300〜2500語を学ぶとしていますから、中学生レベルの英語であることが裏付けられました。なお孫さんの使う単語の約96%は、日常会話に使われる基本的な単語としてオックスフォード大学がリストアップした「オックスフォード3000」に含まれています。

アリババの創業者ジャック・マーさんが、孫さんと意見交換をするため、毎月のように来日していた時期があります。マーさんは中国人ですが英語の先生をしていたことがあるので、孫さんとの会話は通訳なしの英語です。

孫さんは、なぜ日本のヤフーオークションが、世界最大のオークションサイト・イーベイに勝てたのか、シンプルな英語で懇々と説明していました。出品手数料を無料にしたことが勝因なのですが、孫さんのキーワードは「proven success」。「証明された成功」で、つまり実績のことです。難しい表現は一切使わず、実績一点に論理を集中したのです。

その話を聴きながらマーさんが静かにうなずく姿が、非常に印象的でした。英語のレベルではなく、「何を伝えるか」「話のどこを強調するか」が交渉力を決定づけることを、強く感じた場面です。

2人は互いに、「ジャック」「マサ」と呼び合っていました。孫さんはどんな相手にも、必ずファーストネームで語りかけます。実はこれ、日本人が苦手なところです。日本のビジネスでは相手の苗字さえ呼ばず、「部長」「課長」と役職名だけで呼びかけるのが普通だからです。しかし英語で外国人とコミュニケートするには、会話のはしばしにファーストネームを入れて親しみを演出する心掛けが必須です。

孫さん以外にも、英語のコミュニケーションに成功している日本人はたくさんいます。共通点は「発音の正確さ」よりも、伝え方の設計に意識を向けている点です。

「リングをもらう」で喝采を浴びた大谷選手

代表は、ロサンゼルス・ドジャースで活躍する大谷翔平選手でしょう。カタカナ英語でも聴き手を感動させるのは、孫さんと同じように通訳を使わず自分の言葉でスピーチするから。それとキーワードの使い方が上手い。

「どの単語に気持ちを乗せるか」を学ぶため、昨年のワールドシリーズで優勝したあと、ドジャースタジアムにファンを集めて行われた祝賀会でのスピーチを例に挙げます。