NTTドコモが、提携効果があるとは思えない会社の買収を続ける。野菜通販「らでぃっしゅぼーや」、大手CD販売「タワーレコード」……。この買収は本当に「迷走」ではないのか。徹底取材で真相を究明する。
なぜ、iPhoneを売らないのか
9月12日、ついにアップルの新製品「iPhone5」が発表となった。高速通信規格「LTE」に対応し、従来モデルよりも画面サイズも大型化された。21日から発売となり、当然のことながら、日本ではソフトバンクモバイルとKDDIが取り扱う。今回もNTTドコモから発売されることはない。
6月よりNTTドコモの新社長に就任した加藤薫氏は「いまのところ、NTTドコモでiPhoneを取り扱う予定はない」とiPhone導入の可能性を否定する。NTTドコモとしては、自社で提供するネットワークサービスをユーザーに提供していく方向性を示しており、自社サービスを提供しにくいiPhoneの導入には消極的なのだ。
また、ドコモとしてはスマートフォンの販売計画として年間1300万台を予定しているが、「iPhoneを導入しようと思えば、アップルからは計画販売台数の半分以上(650万台)を売れと言われることになりかねない。もし数あるラインアップの1つとしてならぜひ導入したいが、そのような要求はのめるわけがない」(山田隆持前社長)と素っ気ない。
販売計画台数の半分以上がiPhoneになってしまっては、当然、NTTドコモを主力の納品先としている日本メーカーは間違いなく立ちゆかなくなるだろう。パナソニックやNECカシオを守る意味でも、NTTドコモとしてはiPhone導入には慎重にならざるをえない。
しかし、iPhoneなきNTTドコモの現状は惨憺たる有り様だ。
2012年8月の携帯電話契約数で比較すると、ソフトバンクモバイルが21万7200件、KDDIが16万1900件なのに対し、NTTドコモは8万1200件しか稼げていない(電気通信事業者協会調べ)。
特にひどいのが電話番号を他社に持ち運べるナンバーポータビリティ制度(MNP)の数字だ。KDDIが3万4500件、ソフトバンクモバイルが1万500件の転入超過(プラス)なのに対し、NTTドコモは4万3300件の転出超過(マイナス)となっている。
iPhoneの新製品発表直前ということもあり、4万強のマイナスで収まっているが、一時期は10万件前後のマイナスが続くなど、iPhoneを目当てにNTTドコモからソフトバンクモバイルやKDDIに流出するユーザーが後を絶たないのだ。
9月21日よりiPhoneの新製品が発売となることで、さらなるユーザー流出は避けられないだろう。これまで、「ドコモからiPhoneが出るのを待つ」という辛抱強いユーザーもいたのだが、加藤社長のiPhone否定発言によって、「今回の新製品で他社に移行する」というユーザーが増えることが予想される。(※すべて雑誌掲載当時)