「分離プラン」で端末が売れない!
ケータイの販売が振るわない。
新規契約数から解約数を差し引いた2008年度の契約純増数は、過去最低を記録した。ソフトバンクモバイルが約204万増と2年連続で首位となり、NTTドコモが約121万増で続く。3位には約99万増のイー・モバイルが入り、前年度は2位だったKDDIは約50万増で4位に凋落した。ドコモは、かろうじて契約数シェア50%超を死守した。30%を割ったKDDIも、依然として退潮傾向に歯止めがかからない。
KDDIは、09年3月期の第3四半期決算で、端末の販売台数を前年同期比331万台(29.2%)減の801万台と公表したうえで、通期での予想販売台数を、期初の1440万台から1090万台へと下方修正した。端末在庫数も、210万台と、前年同期の130万台より1.6倍の増加となった。予想外に売れていないのである。
だが、利益は稼ぎ出している。
先の第3四半期決算で、KDDIの携帯電話事業の営業収入は2兆495億円で前年同期比2.4%減だが、営業利益は同7.6%増の4426億円と減収ながら過去最高益を記録した。
野村総合研究所の上級コンサルタント北俊一氏は、「携帯電話会社(キャリア)は端末が売れないほうが利益が上がる形になってしまっている」と解説する。
こうした矛盾が生じる背景に、キャリア各社が導入した新料金システム「分離プラン」がある。従来は、携帯電話の販売店にキャリアが一台あたり平均約4万円の販売奨励金を支払うことで、店頭での端末価格を低く抑えていた。そのかわり、ユーザーが支払う月々の料金には、基本料や通信料とともに販売奨励金に相当する額がいわば分割式で上積みされるグレーゾーンが存在していた。やがて、総務省が開くモバイルビジネス研究会の提言もあり、端末代金と通信料を明確に区分するために分離プランが導入された。一昨年秋ごろから、店頭の端末価格が上がり、一括または分割払いが主流になったのも、そのためである。
1億総ケータイ時代を迎え、市場が飽和しつつある。分離プランの導入によって端末の店頭価格が上がり、消費不況も重なって売れ行きが低迷する。そのため、キャリアが販売店に販売奨励金を支払って端末のセールスを後押しするという独特の商慣行も大きくは変わらなかった。
販売不振によって売上高が減る。加えて、分離プランでの端末購入者が増えているために、ユーザーから月々吸い上げていた前述のグレーゾーンの上積み分が漸減してARPU(契約者一人あたりの月間支払額)が低下し、減収に拍車をかける。ところが、予算として計上した販売奨励金を使い切らずに済んでいるために支出が減り、むしろ増益になるという皮肉な結果となっているのである。
KDDIの営業マンは、「小野寺社長が社内で『端末が売れないから利益が出る。危機的な状況だ』と訓示しています」と打ち明ける。また、auの宣伝キャラクターにジャニーズ事務所のアイドルグループ嵐を起用したことにふれ、「街中で盗まれるほどポスターの人気はあるのに、端末の人気はない」と苦笑した。
野村総研の北氏がいう。
「あと1年から1年半ぐらいで、大半のユーザーが分離プランに移行して、端末が売れないほうが利益が上がるということはなくなる。ARPUも目に見えて落ちていくので、決算に影響が出てくるかもしれません」