車会社のDMに車の写真は載せず

宛名が記されていないDMが抜群の集客効果を発揮している――。

ヤマトダイアログ&メディアが2006年11月からスタートさせた宛名なしDM「エリアダイアログ」の一通当たりのコストは新聞の折り込みチラシの約5倍。だが、レスポンス率は約10倍、時には50倍から100倍もの数字をたたき出す。新聞購読率が減少し、とりわけ若年層の新聞離れが加速する中、費用対効果の高い「エリアダイアログ」の取扱量は毎月倍々ゲームで拡大中だ。

宛名なしDMはDMとチラシの中間的サービス
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宛名なしDMはDMとチラシの中間的サービス

同社はヤマトHDとドイツポスト・ワールドネットの合弁企業。「エリアダイアログ」は、独自に開発したエリアセグメンテーションデータベースを活用。町丁名単位で抽出したターゲットエリアに一斉にDMを配達して新規来店の集客を支援する。

使用するのは国勢調査や自動車登録台数など公のデータ。場合によってはさらにクライアントが持つ顧客リストなどのデータをプロットしていくが、これで即配達エリア決定、とならないのが「エリアダイアログ」の強みだ。代表取締役社長の成井隆太郎氏は言う。

「高級車の所有者が多いエリアを絞りたい場合、データだけだと、トヨタのクラウンの所有率は足立区や江東区で高くなる。タクシー会社が多く、一営業所だけで何十台も保有しているからです。データといっても信用はできない。仮説を立て検証しながら、丁寧に人間の手でチェックしていくしかありません」

DMの作り方や配達時間にも、高いコストパフォーマンスの秘密が隠されている。ある車会社のDMは、あえて車の写真や絵を使用しなかった。昼間にポストからDMを取り出した主婦に「夫が車の買い替えを言い出しかねないから」とこっそり捨てられるのを未然に防ぐためだ。

週末に集客を図りたいときには、DMを金曜日のできるだけ早い時間帯に配達している。一般に土曜日の朝は起床が遅い。金曜に夕刊を取り出した後に配達すれば、土曜日の昼すぎまでDMが見られない可能性が高くなり、来店確率はがくんと落ちる。ターゲットが手にするシーンを想定したきめの細かい工夫が、DMを生きた販促ツールに仕上げている。

どんなイメージのDMにするのか、どういった形でレスポンス件数を測るのか。DMを持参して来店したときにどんなお土産を用意するのか。クライアントにコンサルティングしながら、プランニングの段階から関与した案件はレスポンス率が高い傾向にあるそうだ。「エリアダイアログ」を通して、予想外の結果に驚くクライアントも多い。

週末に客を呼ぶのに金曜夜では遅い

週末に客を呼ぶのに金曜夜では遅い

「20代が中心顧客だと思っていたら、実際は30代や40代だったと初めてわかったりします。私はらっきょうの皮むきだと言ってますが、条件をあまりに細かく絞っていくと、本来取り込むべき人たちが外れることもあるんですね」(成井氏)

宛名なしDMは、ターゲットを絞りつつ、潜在需要の開拓を図るのに適したツールといえそうだ。

TVの視聴者や新聞の購読者が減少しようとも、郵便ポストを見る人が減ることはない。宛名なしDMは、リコールの告知や自治体の広報活動にも利用されている。ドイツではDMはギフトとしてとらえられ、飛び出す絵本型などバラエティに富んだDMがポストに舞い込む。誰もが1日一度はのぞく郵便ポストを媒介とした販促ツールのすそ野は広い。

(坂本道浩=撮影)