団体ツアーに同行する添乗員は、旅行の仕切りだけでなくトラブル対応のプロでもある。日本一の添乗員を決める「ツアーコンダクター・オブ・ザ・イヤー2024」でグランプリを受賞した大矢千尋さん(読売旅行所属)はクレームを受けた際、「決してお客さまの言葉の否定からは入らない」という。トラブル対応の鉄則を、ジャーナリストの坂元隆さんが聞いた――。
読売旅行で添乗員を務める大矢千尋さん
筆者撮影
読売旅行で添乗員を務める大矢千尋さん。日本一の添乗員を決める「ツアーコンダクター・オブ・ザ・イヤー2024」でグランプリを受賞した

添乗員付きの団体旅行はめっきり減った

テンツキ、という言葉をご存じだろうか。添乗員付きツアーを意味する観光業界用語である。数十人が団体を作ってバスで移動し、目的地に着いたら旗を持った添乗員のあとをついて観光するというパッケージ旅行のことだ。

テンツキは、個人旅行化の流れのなかでめっきり減った。コロナ禍がそれに拍車をかけ、最近の観光庁の統計によると、主要旅行会社の取扱高のうちテンツキが主体の募集型ツアーの割合は2割程度しかない。

しかし、テンツキは今でも健在だ。テンツキでヨーロッパなどの海外旅行に行く人はまだまだ多いし、国内旅行でも高齢者や障害を抱えた人などの間でテンツキへのニーズは高い。

テンツキが少しずつ進化しているのも見逃せない。団体型の募集旅行というと知らない人同士でも夜は一緒に旅館の大広間で宴会というのがよくあるパターンだったが、現在では参加者それぞれが自分の家族や友人と夕食のテーブルを囲むのが普通になっている。

また、海外の観光地では規制が厳しくなり、添乗員の旗はほとんど見かけず、人形やうちわといった物で代用されるようになった。添乗員が大声で参加者に説明をしている姿もあまり見られない。イヤホンガイドのシステムが普及して、添乗員のマイクを通した説明を参加者がイヤホンで聞き取るようになったからだ。

「日本一の添乗員」がバリ島で遭遇したトラブル

テンツキの代名詞ともいえる添乗員の役割自体も変わってきた。宴会でかくし芸を披露したり、バス乗車中に歌ったりという、ツアーの盛り上げ役のイメージが強かったが、最近では、ツアーの安全管理者としての側面により重点が置かれるようになってきた。

「時代が変わってお客さまが自分の時間を大切にするようになったためだと思います」。日本一の添乗員を決めるツアーコンダクター・オブ・ザ・イヤー2024で、グランプリの国土交通大臣賞を受賞した大矢千尋さん(37歳、読売旅行所属)は言う。実際、大矢さんの添乗員としての評価が一気に高まったのは、2016年にバリ島のデンパサール空港で遭遇したトラブルの際の臨機応変な対応だった。

ジャワ島とバリ島の5日間のツアーを終え、深夜の帰国便に乗るためツアー参加者20人を連れて空港まできたものの、滑走路亀裂で空港閉鎖になってしまったのだ。ジャカルタで未明に日本への乗継便に乗る予定だったが、出発できず、参加者はデンパサールで延泊することになった。