2026年の箱根駅伝、レースの行方とともに注目が集まるのが、選手たちの“足元”だ。かつての王者「アシックス」の着用率は一時、ゼロにまで落ち込んだ。「負けっぱなしで終われるか」どん底のなか、開発者たちは歯を食いしばった。そして、2025年8月。129gという超軽量シューズが完成した。「1gでも軽く」開発者たちの執念に迫った――。(取材・文=フリーライター・笹間聖子)

靴紐の先端を、1センチ削る

129グラム。単一電池約1個分。

それが、2025年8月に発売されたメタスピードの最新モデル「METASPEED RAY」(以下、レイ)の重さだ。

129gの超軽量シューズ「MASTERSPEED レイ」を持つ竹村さん。
撮影=プレジデントオンライン編集部
129gの超軽量シューズ、「METASPEED RAY」を持つ、アシックススポーツ工学研究所の竹村周平所長。

初代のスカイ約199g、エッジ約188gに比べると、60~70g軽くなっている。メタスピード開発チームが、「削れるものはすべて削る」姿勢で「あと1グラム」の削減に臨んだ結果である。

例えば靴紐。初代シリーズから、2024年に発売された3代目でより軽量になったのだが、レイでは、靴紐の先端についているプラスチックの小さな部品「セル」も約1センチ短くし、太さも約1ミリ細くして軽くしている。

靴が地面にふれる部分「アウトソール」の厚みは「3ミリないくらい」まで薄く。

また、通常のランニングシューズは、グリップ力を高めるために「エンボス加工」と呼ばれる凹凸が施されているが、レイはそれも取られた。

「プロのランニングフォームで走ったときに問題がないか、グリップ力は何度も突き詰めました。レイにはトレイルランニング用のアウトソールを使っており、エンボスがなくてもグリップします。むしろない方が地面と“噛む”んです」

加えて、アウトソールに使っているラバーは水切れもよく、「雨の日のレースでも抜群のグリップ力を発揮してくれる」と、アスリートから評価が高い。

MASTERSPEED TOKYOエッジのセル(左)と、レイのセル(右)。比較するとそのサイズ差は歴然だ。「1gでも軽く」開発者たちの執念を感じる。
撮影=プレジデントオンライン編集部
「METASPEED TOKYO」シリーズ、エッジのセル(左)と、レイのセル(右)。比較するとサイズ差は歴然だ。「1gでも軽く」開発者たちの執念を感じる。

「糊」の重さすら惜しかった

靴の大部分を占める生地「アッパー」も、軽く通気性を高くするため、極限まで目を荒く。しかしながら、アスリートが力強く引っ張ってもやぶれない素材をフランスから取り寄せた。

さらにレイでは、アッパーとアウトソールの間の「ミッドソール」の構造も変えている。

通常は2層仕立てで間にカーボンプレートを挟んでいたが、レイは安定性よりも軽量性に重きを置いたため、1層構造に。

2つのミッドソールを貼り付ける「糊が減らせる」こともポイントとなった。

数ミリ、数グラムでも「削り出す」。執念を感じる試行錯誤である。

「トップアスリートにテスト実証してもらい、減らせる部分はどんどん削り出していきました。それぐらい、軽さというのは彼らのパフォーマンスに影響します。1ミリ、1グラムを変えても、彼らはその違いにすぐ気がつくのです」

筆者は取材時レイを持たせてもらったが、「うわっ」と思わず口走ってしまうほど軽かった。とても靴とは思えない、例えるなら、ティッシュ箱を持った重さに近かった。

「MASTERSPEED TOKYO」スカイ(左)、レイ(中央)、エッジ(右)。スカイとエッジはソールが2層になっているのに対し、中央のレイは1層になっている。
撮影=西田香織
「METASPEED TOKYO」スカイ(左)、レイ(中央)、エッジ(右)。スカイとエッジはソールが2層になっているのに対し、中央のレイは1層になっている。