目的の1つは中国需要の獲得
「AQUOS(アクオス)」の名を高めた「亀山モデル」の生産拠点である亀山工場(三重県)が、一転してシャープの重荷になっている。ゴールドマン・サックス証券アナリスト、藤森裕司氏は、「亀山第一工場をつくったのはよかった。が、亀山第二工場までつくったため、自社でさばけるボリューム以上のキャパシティーを持ってしまった」と指摘する。
部材の調達から部品の組み立て、最終製品化までの一連の流れを国内の生産拠点で完結させるような経営を、一般的に「垂直統合」という。シャープでは、これをより発展させ、組織横断的な開発チームを編成して技術革新を図り、さらに先進的な製品を生み出すという独自の「スパイラル戦略」を標榜してきた。
「しかし、スパイラルになるどころか、社内での需要と供給のミスマッチが起こり、在庫の問題となって、去年、重くのしかかった。シャープが40年間、培ってきたビジネスモデルが破綻したといえます」(藤森氏)
在庫を過大に抱えるに至った大きな要因として、世界同時不況で消費不振に陥ったうえに、韓国や台湾などの競合メーカーが円高を背景に日本マーケットへ浸透し、液晶製品が国内市場で急速に値崩れしたことが挙げられる。シャープは、中小型の液晶製品の主力生産拠点である亀山第一工場などの操業を停止し、在庫調整を図った。ことしに入り、中国企業との間で亀山第一工場の生産設備の売却交渉が進んでいると伝わった。売却額は約1000億円といわれる。
4月8日、東京で開かれたシャープの経営戦略説明会で、社長兼COOの片山幹雄氏は「地産地消を進めていく」と繰り返した。そして、「シャープ自身が大きく変わらなければならない」と語り、「いままでのように全部自分のお金で、工場を全部日本につくって、海外に液晶パネルや太陽電池をばら撒く方式が現在の状態を引き起こしたというのは、われわれの反省事項です」とまで言ってのけた。
さらに、「新しい試み」として「エンジニアリング事業」なる耳慣れない言葉を用いた。スパイラル戦略に成りかわる経営政策ともいえ、国内外の企業と手を組んで協業に乗り出し、投資額を下げるとともに為替リスクを回避する一方、「工場のオペレーションを当社が担うことなどで技術流出を防ぐ」という。
現在、中国では、家電製品などを購入する場合に政府が補助金を出す「家電下郷」という政策を実施している。片山氏は、「家電下郷制度では26インチ以下(の液晶テレビ)が対象になるので、操業を止めている亀山第一工場の設備が再度役立つのではないか」としながら、「いろいろ検討している」とだけ述べた。
片山氏の宣言を株式市場は好感した。説明会の翌日、同社の株価は急騰し、年初来最高値を更新して2008年10月以来の900円台を回復した。上場以来初の営業赤字に転落するばかりか、説明会では300億円の下方修正をして当期純損失が1300億円に膨らむと発表したにもかかわらず、である。
神戸大学大学院経営学研究科教授の加護野忠男氏は、100年に一度といわれる世界同時不況のさなか、「日本企業の多くは10年に一度の強化という程度の対応しかできていない」と嘆く。
「シャープは100年に一度の対応をしていると評価できる。古い技術と設備は指導までして中国に売り、新しい技術は新設する大阪・堺工場で前に進めるとは、思い切った決断です」