OSはほぼ3分の1。CPUは半額
ある調査会社のアナリストは、「私が言ったとなると問題が……」と前置きし、5万円パソコンが実現した3つの条件を“謎解き”してくれた。
「ネットブックと呼ばれるパソコンが、5万円前後で売られていますが、部品原価は2万円ぐらいでしょう。ただ、それでも儲けを出すには、市場で1000万台程度の規模の利益を追わないと難しいはずです」
カーナビ用7インチ液晶パネル=70ドル。基本ソフト(OS)「ウィンドウズXP」=50ドル。中央演算装置(CPU)「インテル製アトム」=25ドル。これらにハードディスクやメモリーなどのコストを合わせると約200ドルで、利益は出る。ただ、パソコンは薄利多売のビジネスで、年間1000万台以上の売り上げが事業存続を左右する。
2つ目は、台湾メーカーは大量の部品を購買し、強力な価格交渉力を得たことだ。世界市場で売られるパソコンの約9割を生産する台湾メーカーならではの力技といえるが、大量に部品を購入することにより通常の市場価格に比べ、OSはほぼ3分の1、CPUは半分の値段で仕入れているといわれる。
最後は、余分な応用ソフトを標準搭載していないことでコストを安く抑えたことだ。一般ユーザーが利用するパソコン機能の8割は「インターネットと電子メール」という現状に着目し、使われない機能を徹底的に省いた。最近はインターネットのサーバー群から必要な情報をいつでも取り出せる「クラウドコンピューティング」が進化し、ネット上で文書作成や表計算ができるようになった。
こうしたビジネスモデルを実現した台湾メーカーは、アスースとエイサーの2社で、同市場の6割を占める。「パソコンに触れたことのない初心者向けに開発していたら、たまたま5万円になった」(アスースジャパン・滕婉華マーケティングマネージャー)、「新興国でクライアントを増やしたいと考えたが一気には行けず、まず日本を狙った」(日本エイサー・瀬戸和信マーケティング部マネージャー)と、5万円パソコンに参入した動機を説明するが、高機能を好むとされた日本市場に投入すると、予想以上に需要が広がり、1年でパソコン市場で2割近いシェアを獲得した。
昨年秋からは東芝、NECなどの日本メーカーもネットブック市場に参入して乱戦模様だが、日本と台湾ではビジネスモデルに決定的な違いがある。MM総研の中村成希ITプロダクツ研究グループアナリストは、「日本が設計から生産までを1社で抱える垂直統合なのに対し、台湾は水平分業どころか、設計や調達に特化した“商社”のようだ」と分析し、低価格パソコンの分野では台湾モデルが勝利の方程式につながる可能性を示唆した。
ガートナージャパンの蒔田佳苗主席アナリストは、台湾メーカーのブランド戦略をこう語る。
「市場におけるブランドの認知度を上げ、マーケットシェアの上位に食い込むことで他のビジネスにつなげる狙いがある。5万円パソコンの利益は薄くても、ブランド戦略として彼らには十分なメリットがあるはずです」
そんな解説を聞くと、世界の動きから大きく取り残される“ガラパゴス化”する日系メーカーのゆく末が心配になる。現在、利益が確保できるとされるパソコンの年間生産量である1000万台以上の日系メーカーは、東芝だけ。5万円パソコンは日本のものづくりの将来を暗示している。