2012年“和製LCC元年”といわれた年に就航した、ピーチ・アビエーション、ジェットスター、エアアジア。この中で、下馬評が最も低かったピーチだけが、上昇気流に乗り続けている。

コストを意識するピーチの社風

自分たちでつくり上げていく喜びを感じているのは、パイロットの藤林泰三も同様だ。JALのグループ企業、日本トランスオーシャン航空に勤務していた藤林は11年、43歳でピーチに移籍した。

オペレーション本部 運航部 乗員訓練課 運航乗務員 路線教官操縦士 藤林泰三氏

「パイロットの定年は当時60歳とされていました。私のキャリアがちょうどあと17年というところで、ピーチがパイロットを募集しており、定年までをここで過ごし、歴史をつくる一員になりたいと考えたんです」

LCCであろうと、JALやANAのようなエアラインであろうと、パイロットの役割はまったく同じ。給与水準も大手と比べてそう遜色はない。だが、違う点もたくさんある。

「いわゆるパイロットの既得権益というか、タクシーでの送迎や食事の支給等はありません。私はコックピットに水筒を持参していますし、食事は機内食を購入するか弁当持参です。でも送迎や食事というのは余計なプライドでしかない。安全に定時に快適に飛行機を操縦することが、パイロットのプライド。いま飛行教官として指導する立場にありますが、若い人たちにも根拠のないプライドを持つな、やるべきことをやれと指導しています」(藤林)

LCCではCAが機内清掃も担当するが、パイロットも例外ではない。客室の準備が整っていなかったり、フライトが終わって次のクルーに引き渡すときには、シートベルトを整えるといった手伝いもする。時間を短縮できればコスト抑制につながるからだ。

「例えば、福岡空港のような混雑する空港では1分の遅れで、離陸が5番目に回されたりすることもよくあるんですよ。出発の遅れを取り戻すためにスピードを上げると、今度は燃料が余分にかかって、100ポンド、200ポンドがすぐに吹っ飛ぶ。燃料費が1ポンド30円とすれば、100ポンドで3000円。ちょっとの遅れで3000円の利益がふいになる。こんなふうにコストを意識するのは社風かな(笑)。でも全然いやじゃない。達成感を感じながらやっています」(藤林)