NTTドコモが、提携効果があるとは思えない会社の買収を続ける。野菜通販「らでぃっしゅぼーや」、大手CD販売「タワーレコード」……。この買収は本当に「迷走」ではないのか。徹底取材で真相を究明する。
プラットホームの優位性が崩れた!
NTTドコモが物販に乗り出すのには、デジタルコンテンツの世界では、競合が続々とアメリカから日本に上陸していることが背景にある。
いまから13年前の1999年、NTTドコモからiモードが出たときは、ニュースやゲーム、音楽などのデジタルコンテンツを流通させるプラットホームとして、一気に普及していった。パソコンに比べて情報量が少なくても、いつでもどこでも見られるということもあり、ユーザーは月額料金を支払っていた。
しかし、スマートフォン時代となり、音楽や映像はアップル・iTunesで手軽に買えるようになった。電子書籍もAmazonが日本でもサービスを始めている。もはや、キャリアによるコンテンツ流通プラットホームの優位性がなくなりつつあるのだ。
デジタルコンテンツの流通は、アメリカの企業であっても、日本での展開は容易であり、NTTドコモにとっても脅威となる存在といえる。しかし、個々のユーザー宅に通信販売でものを届けるというのは、海外のコンテンツ流通業者には参入障壁が高い。
NTTドコモが通販に乗り出す背景には6000万を超えるユーザーに対して、電話料金を毎月回収しており、課金プラットホームとして国内でもトップクラスの規模を誇っていることがある。また、請求書を発行していることから、ユーザーの住所もきっちりと把握している。スマートフォンで通販サイトをつくれば、課金から配送までをNTTドコモで提供することが可能というわけだ。
まさにNTTドコモが目指す将来像はAmazonであり、楽天であるのだ。
他社ケータイでドコモのコンテンツを
一方、本業であるデジタルコンテンツ流通でも新たな秘策を準備する。
7月より角川書店との合弁会社である「ドコモ・アニメストア」で、月額420円で500タイトル、8000話のアニメ配信サービスを提供しているのだが「いずれ、グローバル展開を目指していきたい」(阿佐美弘恭マルチメディア担当スマートコミュニケーションサービス部長)という。
国産のアニメは世界でも評価が高いということもあり、世界でも勝負していくとしている。
実際、NTTドコモでは、欧州最大のモバイルサービス提供事業者である「ボンジョルノ」を株式公開買い付けで傘下に収め、中国最大手のインターネット検索事業者「百度」との合弁会社への出資も完了している。
グローバル規模でのコンテンツ配信プラットホーム事業を推進していくためのものだ。阿佐美氏は「アニメにとどまらず、ゲームも準備している。今年中にリリースできるよう、淡々と準備を進めている」と語る。
NTTドコモが持つコンテンツを世界に展開するとなると、当然のことながら、ドコモのスマートフォンでなくても閲覧できるようになる、ということだ。阿佐美氏も「それは当たり前のことだ。これからはプラットホームを提供するだけではなく、総合サービス企業に変わっていく」と断言する。
単にドコモのユーザーだけにコンテンツを売るというのではなく、ドコモがスマートフォン上に直営店を開き、スマートフォンユーザーに向けて、コンテンツを販売していくという姿を目指すのだという。コンテンツの販売先は、日本に留まることはなく、世界に向けて売っていくというのだ。
だが、日本国内となると話は別だ。KDDIやソフトバンクモバイルのユーザー向けにアニメやゲームを売るかといえば「それはちょっと微妙だ。技術的には可能だが、経営の判断になると思う」(阿佐美氏)とトーンダウンしてしまう。本来であれば、キャリアを問わず、日本の全スマートフォンユーザー向けに販売できれば理想なのだが、やはりそこはどうしても、キャリアとしてライバルとの「差異化」が頭をよぎる。ドコモユーザーを囲い込むためのツールになってしまうのだ。
ただし、現場を取り仕切る阿佐美氏としては「昔はお客さんを回線契約で縛って、個々しか使えないよという時代だった。それは我々にとっておいしい時代だった。しかし、(Androidという)OSを選んだ時点でドコモは競争のなかに飛びこんだ。これからのドコモはサービス提供者になっていくしかない」という。
実際、グーグルは自社のAndroidだけでなく、iPhoneなどにもサービスを提供している。
Amazonがアメリカで展開している電子書籍サービスも、自社端末である「Kindle」だけでなく、iPhoneやiPad、Androidスマートフォンでもコンテンツを提供している。
日本でも、KDDIはソフトバンクモバイルのiPhoneユーザーに対しても自社の音楽サービスを提供する。もはや、サービスを提供する会社は、端末を限定しているようでは先行きは暗く、いかにマルチデバイス対応するかが、勝負のカギとなっているのだ。