前回、百貨店の失敗は、均一化であると指摘していた元カリスマバイヤーの藤巻幸大氏。ではどうすれば生き残っていけるのだろうか。マル庶・マル中・マル金の3つの、どの所得層でも低迷していた渋谷・東急本店について、藤巻流の目のつけどころをきこう。
Bunkamuraや「意外性」とのシナジーが復活のカギ
「ぼくは、東急本店はこれからが面白いと思っています。まず今年開業のヒカリエや原宿東急プラザで新しいイメージ戦略を築いた。その先にあるものと位置づければいいのです。今はBunkamuraとのシナジーが弱いけれど、そこも見直すべき点。あの高尚でクリエイティブな場所ともっとつながるべき。そして徹底して高齢層に向けた品揃えになっているところも問題で、年代別は廃止して思いきってテイストで切るべきです。だいたいあの場所って面白いじゃないですか。そばには松濤という高級住宅街があり、反対側にはラブホテル街もあるという環境。そして何より、Bunkamuraでしょう。意外性がある。それこそが存在意義です」
次に会員カードの統合といった顧客の囲い込み戦略にも注目する。伊勢丹と三越は2009年にカードの相互利用を開始。翌2010年、両店共通の「MIカード」がデビューしている。3つの所得層のどのグラフを見ても、そこから三越が少しずつ伸びを示している。
「カードというのは顧客の囲い込み戦略ですからね。そこに膨大な顧客情報があるわけですから。カード部門がネット部門と連携できれば、もっとすごいことになるでしょう」
最後に藤巻氏が気にしていたのは、今回のグラフでは調査対象外となっている、百貨店の地方店のことだ。
「今後はローカリゼーションが問題になってきますね。浦和とか、札幌、新潟など。ぼくはメイドインジャパン、メイドイン地域にこだわることだと思っていますが。そうなるとJRの商業施設とのバトルにもなってくるでしょう。すでにルミネは目が離せない状況でもありますし」
新宿伊勢丹とルミネの共同開発ブランドなども話題になっている。百貨店の敵はもはや百貨店にはあらず。使い分けの中で各層の人たちが最終的に百貨店に何を求めるか。様々な地域の活性化とあいまって、百貨店の試行錯誤は続きそうだ。
※ビデオリサーチ社が約30年に渡って実施している、生活者の媒体接触状況や消費購買状況に関する調査「ACR」(http://www.videor.co.jp/service/media/acr/)の調査結果を元に同社と編集部が共同で分析。同調査は一般人の生活全般に関する様々な意識調査であり、調査対象者は約8700人、調査項目数は20000以上にも及ぶ。
藤巻幸大(ふじまき・ゆきお)
テトラスター社長/シカタ代表取締役プロデューサー
1960年東京都生まれ。上智大学経済学部卒業後、株式会社伊勢丹入社。同社にて「解放区」「リ・スタイル」「BPQC」など数々の売り場をプロデュース。バーニーズでのバイヤーも経験。伊勢丹退社後、福助社長などを経て、2005年セブン&アイ生活デザイン研究所代表取締役。その後、イトーヨーカ堂取締役執行役員衣料事業部長などを経て、08年、テトラスター社長就任。10年よりシカタ代表取締役プロデューサーを兼務する。著書に『自分ブランドの教科書』『目利き力』など多数。