人びとはどのサービスをどの程度利用し、その傾向は年々どのように推移しているのか――。プレジデントオンライン編集部がビデオリサーチ社と共同でお届けする本連載。首都圏の消費者を「お金持ち」層(マル金、年収1000万円以上)、「中流」層(マル中、年収500万円以上から1000万円未満)、「庶民」層(マル庶、年収500万円未満)という3ゾーンに区切り、生活動態の分析を試みている。前回に続き、大手チェーン居酒屋を検証していく。
「朝から飲める」チェーン系居酒屋
年代別の居酒屋チェーン利用率を見ると、20代で高く、その後はやや離れる傾向にあることがわかる。学生時代の部活のコンパなどに利用したり、社会人になってまだあまり飲む場所がわからなったりするときには利用するものの、徐々に独立系の居酒屋に流れていくということだろうか。あるいは昨今の「家飲み」流行り、20〜30代男性の酒離れといった傾向も影響しているのだろうか。
チェーン居酒屋として60年、リピーター率の高さを誇る老舗・養老乃瀧グループの長島企画部長が、昨今の居酒屋チェーンの状況を語ってくれた。株式会社養老乃瀧は松本に創業、現在は東京・池袋に本社を置く。本社ビルには「養老乃瀧」のほか、自社の業態である「一軒め酒場」「だんまや水産」「魚彦」が入っている。
1階にある一軒め酒場に驚いたのは、ランチメニューを作らず、朝8時から居酒屋として営業しているという割り切った営業スタイルだ。しかも我々調査員が店をのぞくと、15時から女性客が1人でビールを飲む姿もあった。
「『一軒め酒場』を取材して『コーヒーを飲むようにビールを飲める大人のカフェだ!』と書いてくださった記者がいたのですが、まさにそういうことです。今、我々が一番感じているのは、ファミレス、ラーメン屋、カフェ、居酒屋、といった飲食店の業態の垣根がなくなってきているということなのです」
たとえばラーメン屋の日高屋で280円のビールを飲む。ファミレスのサイゼリヤで100円のグラスワインを飲む。カフェのプロントや、たこ焼き屋の銀だこでアルコール類を飲むのもそうだろう。
「ただし、居酒屋には居酒屋に似合うものがある。以前、朝定食やランチをやったこともありますが、お酒の匂いが残る中で飲まずに定食だけを食べるというのはなんとも落ち着かない。隣りでお天道様のある間に飲もうとしている人も肩身が狭い。それならばと、『一軒め酒場』では思いきって、飲みたい人のために居酒屋を押し通すことにしたのです。気持ちよく飲んでもらう」
しかし朝8時から飲みたい人がどれだけいるのだろうか。
「確かに商圏は大きくはありませんが、夜勤明けの人が多いという地域もある。池袋ではなぜか昼間に1人でふらっと来る妙齢の美女がけっこういたりして、どういう職業なんだろうとこちらが聞きたいこともあるくらいです(笑)」
メインの「養老乃瀧」の営業時間帯は各店によって異なるが、居酒屋主義は徹底している。
「顧客の平均年齢は50〜60代。地域にもよりますが、オフィスの多い場所ならサラリーマンが多いし、学生の多い街なら学生が多い。60年やっていますと、『初めて飲んだのが養老乃瀧です』『親子3代で通っています』という人も多い。そこは大切に、年代ターゲットを絞らず、ニュートラルに全方位的に元祖居酒屋として楽しんでもらえるようにと考えています」
そのためには、説明の不要なわかりやすいメニューを心がける。フランチャイズである強みを生かし、各店の地域性やオリジナリティを重視した商品を提供することも認めている。昨今流行している均一価格は、取り入れていない。
「価格を均一にすると、一皿のポーション(料理の量)が少なくなる。話し合いを重ね、価格はばらついても見栄えがいいほうが高い満足度につながると判断しました。大事なのは、その地元のお客様をいかに心地よく常連になってもらうか、ですから。ブレずに大衆性を追求していく。基本に忠実に人材を育てることを忘れずに経営していきたいと思っています」。
ブレない大衆性、という言葉に、同社の自負を見た。
前回掲載した利用率のグラフではそんなに高い数字が出ないのは「1〜2回利用した」人が多数いるわけではなく、比較的少ないながらも「居酒屋に行くなら養老乃瀧」と決めている固定客が確実にいるということなのだろう。
[グラフはこちら] http://president.jp/articles/-/7800
※ビデオリサーチ社が約30年に渡って実施している、生活者の媒体接触状況や消費購買状況に関する調査「ACR」(http://www.videor.co.jp/service/media/acr/)の調査結果を元に同社と編集部が共同で分析。同調査は一般人の生活全般に関する様々な意識調査であり、調査対象者は約8700人、調査項目数は20000以上にも及ぶ。