人びとはどのサービスをどの程度利用し、その傾向は年々どのように推移しているのか――。プレジデントオンライン編集部がビデオリサーチ社と共同でお届けする本連載。首都圏の消費者を「お金持ち」層(マル金、年収1000万円以上)、「中流」層(マル中、年収500万円以上から1000万円未満)、「庶民」層(マル庶、年収500万円未満)という3ゾーンに区切り、生活動態の分析を試みている。前回に続き、大手チェーン居酒屋を検証していく。
ファミレスと居酒屋の「最大公約数」
年収の差を問わず、面白い居酒屋というのはどんな居酒屋なのだろう。外食産業のコンサルタントとしても活躍する株式会社カゲンの子安大輔氏は、最近気になる居酒屋をいくつか挙げてくれた。
「居酒屋チェーンとまでは言えない小さな動きですが、もともと『牛角』のフランチャイズに加盟していた企業が『すみれ』という、家族で行ける焼き鳥屋を出しています。半個室で中学生以下はフリードリンク。ファミレスでお酒を飲むのは気がひけるし、居酒屋で家族ごはんというのもちょっと違う。その最大公約数をとったということでしょうか」
ロードサイドにもこうした焼き鳥居酒屋は増えているという。もうひとつ、子安氏は珍しく売り上げも店舗数も伸びているというチェーン居酒屋にも注目していた。これも焼き鳥。「鳥貴族」である。
「チェーン店が終わったと言われるなかで、唯一大きく伸びているのが『鳥貴族』なんです。1980年代、大阪に創業していて、最初の10軒を出すまでは5年かかっていますが、ここ10年で店舗数は300店にも達している。大倉忠司社長には『飲食を通してお客様を喜ばせよう』という理念があるようです。フランチャイズしてもらう経営者は絞り込み、幾人かは自社ビルにも入れている。店には私も行ってみましたが、確かに均一料金の店にありがちな『安かろう、悪かろう』のせつなさはない気がしますね」
鳥貴族のメニューは飲み物も食べ物も一律280円(税込み294円)である。焼き鳥一皿が280円というのがそんなに安くもないが、安く思える、満足できる要素があるのだという。そこでVR生活調査チームは、まだ数週間前にできたばかりの鳥貴族六本木東店に潜入することにした。
女性調査員Iがまず店舗の清潔感に反応した。
「できたばかりのお店だということもあるけれど、木のいい匂いがしますね。暗さもないし。高級感があるというわけではないけれど、居心地はいいです」
テーブルはボックス席になっているところもあり、周囲の喧噪からも守られる。机は幅が狭め。調査員Aが言う。
「最近、はやっている店は机が狭いところが多いような気がしますね。どんどん食べてお皿を片付けてもらい、次を注文してもらうという流れになるからでしょうか」
調査員Kは、ジョッキの形に着目していた。
「このジョッキ、小さめでぼこぼこしていて、実は量はそんなに入らなさそうですね」
ワインは「かち割りワイン」という氷を入れたワインしかないのもちょっと笑えた。子ども用のソフトドリンク飲み放題というのもあり、家族需要を狙うこともうかがえた。店の明るさや仕切り具合も、居酒屋とファミレスの中間を狙っているとも考えられる。やがて料理が出てくると、みんな驚いた。
「でっかいなあ。この串!」
名物という「貴族焼き」は、ひと串が90グラムもある焼き鳥が2本お皿に載っている。3〜4人でも十分シェアできるほどだ。味もしょっぱ過ぎず頃合い。「デパ地下的な味ですね」と、二人の子どもをもつA 調査員も満足げ。
人気メニューという唐揚げ、卓上で仕上がりを待つ鳥釜飯もボリューム、味ともに平均点を越えていた。すべて280円である。結局我々のその日は、大いに食べて飲んで、1人2600円程度。年末年始に向け、8人揃えば1人2800円で2時間飲み放題食べ放題というプランもある。
鳥貴族旋風はまだまだ吹き荒れるのか。しかしこのグレードの居酒屋チェーンが増えてくれれば、年収の差を問わず平和に楽しめる時代が来そうな気もしてくる。
[グラフはこちら] http://president.jp/articles/-/7908
※ビデオリサーチ社が約30年に渡って実施している、生活者の媒体接触状況や消費購買状況に関する調査「ACR」(http://www.videor.co.jp/service/media/acr/)や「MCR」の調査結果を元に同社と編集部が共同で分析。同調査は一般人の生活全般に関する様々な意識調査であり、調査対象者は約8700人、調査項目数は20000以上にも及ぶ。
1976年生まれ。東京大学経済学部を卒業後、株式会社博報堂に入社。マーケティングセクションにて、食品や飲料、金融などの分野の戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、共同で(株)カゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』(ともに新潮新書)。