105円で得られる満腹感
4月に入ると、全国各地にある讃岐うどんチェーンの「はなまるうどん」の店頭には長い行列ができる。期間限定で発売される「うどん定期券」を購入しようと人々が列を成すのだ。この税込価格500円の定期券を持っていれば、購入後の1カ月間、毎日1回、全メニューが105円引きになる。かけうどん小(小とはいっても男でも十分お腹がいっぱいになる量だ)ならば毎日無料で食べられる。入学・入社・人事異動・転居といった人の移動が最も多い時期を狙って、周辺の消費者に、店舗の存在を認知してもらい、朝食やランチなどへの来店を習慣付けるきっかけをつくるための販売促進策だ。
同社の業績は、そういった消費者のニーズ・ウオンツを捉えた施策が功を奏し、厳しさを増す経済情勢の中でも、売上高が前年比103%、客数が105%と堅調に推移している。しかし、2004年の讃岐うどんブームが終焉した後に売り上げが低迷した時期もあった。そのとき、河村泰貴社長は顧客の声に耳を傾けることに徹した。アンケートを実施したところ、マンネリを脱する新商品の導入が求められていると思っていたら、さにあらず。「ランチタイム後にトッピング商品の欠品が多い」「前の客が席を立った後、テーブルがすぐに掃除されない」といった極めて基本的な課題が浮かび上がってきた。そういった課題に一つ一つ愚直に取り組んでいった結果、V字回復を成し遂げた。
同店は客層を選ばない。出店エリアによる特性はあるが、まさに老若男女でにぎわっている。ここには年収の多い少ないによる客のヒエラルキーは存在しない。例えば、通常価格499円のカレーセット(写真 カレーライス+うどん小)は低所得層でも富裕層でも納得できる充実感があり、お金があっても、もうそれ以上食べられない。4人家族でも1食1000円以内に収めることも可能だ。
また、同店には券売機がない。券売機は従業員の手間が省けてコストダウンになるが、顧客とのコミュニケーションが減る。一見、非効率に見えても、ちょっとした言葉のやり取りが顧客をつなぎとめることにつながるのだ。