前回見てきた概況をふまえ、伊勢丹の元カリスマバイヤーとして知られ、現在は株式会社シカタの代表取締役プロデューサーを務める藤巻幸大氏に百貨店の現況を語ってもらうことにした。藤巻氏がこのグラフから読み解くものと、デパートのブランディングについて詳しく聴いてみよう。


富裕層にとっては「車寄せ」がある百貨店が前提

まず藤巻氏は、この3つのグラフを見て、まずこんな感想を述べた。

「百貨店が時代のガラパゴスになっているのが見てとれますね」

「マル金・マル中・マル庶」の各層では、それぞれに何が見えるか。

「マル庶(年収500万円未満)層の人は、まず車では百貨店にいかないってことですね。だから選ぶエリアが駅周りに百貨店がある池袋か新宿になる。対してマル金(年収1000万円以上)層が日本橋を選ぶのは車寄せがあるからでしょう。外商も多いはずです。日本橋界隈のお金持ちのギフト、三越劇場のお客さんの呉服、あとは陶工芸品も堅調だと聞いています。三井不動産がコレドなど日本橋エリアの開発に成功したとも言えるかもしれません。量販店だらけになってしまった銀座に比べて、日本橋は街として落ち着いています。日本橋三越はまだまだ伸びると思いますね」

マル中(年収500万円以上、1000万円未満)層に対しては、「横並び主義」の傾向を指摘する。

「このマル中層の人たちが、ほかの商業施設とデパートをもっとも使い分けているのでしょう。たとえば、ユニクロが流行って、一番飛びついたのもこの層の人たちじゃないかな。ヒートテックを何枚も買う、みたいな(笑)。つまり横並び主義。みんなと同じものを着たいんです。ブランドものをもっとも買ってきたのも、この人たち。ただそこで感性の差が広がっていて、もう『ブランドものはいらない』という感性の成熟度が高い人が増えている」

パリやミラノといったヨーロッパの都市では、本国の人はあまりブランドものを買わない。そういう感性の成熟が日本にも訪れつつあるということだろう。そんな時代だからこそ、藤巻氏は百貨店が生き残るためには独自のブランド力が必要だと言う。

「ぼくは伊勢丹時代から百貨店がライフスタイルを謳うべきだと提唱して、BPQCという売り場を始めたんですね。ブランドには、(1)マーチャンダイジング=モノ、(2)VMD=どう見せるかという表現力、(3)コミュニケーション=パブリックリレーションや宣伝、(4)人材が4本柱。そしてその後ろ立てとして物語、歴史、哲学がある事が必要です」

一番避けなければならないことは、オリジナリティのなさであると言う。

「百貨店が失敗したのは均一化です。同じようなものを同じように軒を並べて売ってしまったこと。必要なのは、ライフスタイルを提案するフロアであり、ブランドなのです」

[グラフはこちら] http://president.jp/articles/-/7416

※ビデオリサーチ社が約30年に渡って実施している、生活者の媒体接触状況や消費購買状況に関する調査「ACR」(http://www.videor.co.jp/service/media/acr/)の調査結果を元に同社と編集部が共同で分析。同調査は一般人の生活全般に関する様々な意識調査であり、調査対象者は約8700人、調査項目数は20000以上にも及ぶ。

藤巻幸大(ふじまき・ゆきお)
テトラスター社長/シカタ代表取締役プロデューサー
1960年東京都生まれ。上智大学経済学部卒業後、株式会社伊勢丹入社。同社にて「解放区」「リ・スタイル」「BPQC」など数々の売り場をプロデュース。バーニーズでのバイヤーも経験。伊勢丹退社後、福助社長などを経て、2005年セブン&アイ生活デザイン研究所代表取締役。その後、イトーヨーカ堂取締役執行役員衣料事業部長などを経て、08年、テトラスター社長就任。10年よりシカタ代表取締役プロデューサーを兼務する。著書に『自分ブランドの教科書』『目利き力』など多数。

【関連記事】
庶民に支持される「池袋西武」と「池袋東武」。お金持ち支持率No.1の座はどこか ~百貨店編(1)
衰退事業でもヒットを出すマーケティング・リフレーミング
J.フロントリテイリング会長 奥田 務 -“脱百貨店”は慧眼か、自己否定か
第2のユニクロを生む「共感マーケティング」入門