一方、日本の選手は、パスをもらうとき、ほとんど手をあげていなかったのである。当然ながら、黙ったままでは連帯感は生れない。我々のビジネスでいえば、企画、販売、管理など、関係する部署が胸襟を開いて話し合うことで、組織が少しずつ活性化し、連帯感が生まれるのではないだろうか。

また、チームワークが必要なのは社内に限らない。共同事業を行う他社の人や外国人など、外部の人たちを含めて、盟友や戦友だと感じられるかどうか。それも重要だと考えている。

たとえば明治初期の日本では、外国人を数多く迎えて、近代化を急いだ。外国人も日本人も志をひとつにして、新しい国をつくっていったのだ。変革の時期を迎えた21世紀の私たちも、今一度、あの頃のエネルギーやスピリットを思い出すべきではないだろうか。

2009年、当社では、明治期に建てられた東京・丸の内の「三菱一号館」を復元したが、これを設計したのは、明治維新の際に、日本政府が招いたイギリス人建築家、ジョサイア・コンドルである。

復元にあたって建設当時のことを調べてみた。とりわけ感銘を受けたのが、これから建設する一号館について、コンドルと三菱の2代目当主、岩崎彌之助が話し合ったときのエピソードである。「日本のビジネスの象徴となるものをつくってほしい」という彌之助に、コンドルがその具体的なイメージを尋ねる。そこで彌之助は「赤レンガ」をあげるのだ。

その理由は、明るいオレンジ色のレンガが日本の新しい息吹を感じさせること。そして、形や大きさが微妙に違う手焼きのレンガが積み重なることでひとつの建物ができる様が、人の和、人と人とのチームワークを連想させること。この思想にコンドルが共鳴し、丸の内赤レンガ街がつくられたのだ。

今回挙げた2冊に通ずる先人の逸話に、わが意を得たり、との思いを強くした。

木村惠司氏厳選!「役職別」読むべき本

■部課長にお勧めの本

『物語 ジョサイア・コンドル 丸の内赤レンガ街をつくった男』永野芳宣著、中央公論新社

日本の建築界の基礎を築いた「お雇い外国人」は、単なる西洋風建物ではなく、日本独自の建築文化をつくろうと苦悩と努力を重ねた人だった。自身の哲学を貫いた姿勢には学ぶものが大きい。

■若手、新入社員にお勧めの本

『人間の運命』五木寛之著、東京書籍

人生は思う通りにはならない。しかし、勇気をもってそのことをはっきりと認めることで、人生に対して前向きな希望がもてるようになる。自分の将来を見据えるうえで、ぜひ読んでほしい。

※すべて雑誌掲載当時

(梶山寿子=構成 二石友希=撮影)
【関連記事】
なぜ家康は元気なうちに将軍を退いたか
難攻不落でも熟慮断行、断じて行えば勝つ! -ドトールコーヒー名誉会長 鳥羽博道氏
徳川家康:「褒める」ことが失敗につながる理由
古今東西の「名参謀の知恵」に学ぶ【1】
実践家・二宮尊徳「一所懸命」の教え【1】