人生とは「努力」「忍耐」「時」の繰り返し。これは27~28歳のころ、『徳川家康』全巻を読み終えて気づかされたことである。
私には学歴がない。だから数多くの書物を読むことで、経営課題に立ち向かってきた。コーヒー焙煎業のドトールコーヒーを設立してから3~4年目のことである。天下を取るにはどうすればいいか。そんな問題意識を持ち、眠い目をこすりながら毎晩いろんな本を読みあさった。
なかでも『徳川家康』は、『坂の上の雲』と並び、勉強させられることの多い小説だった。1冊のなかから1つか2つの大事を学び、自分のものにすることができたら、それだけでもたいへんな力になる。2つの名著は、私にとって大きなエネルギー源になったのである。
山岡荘八の描くところでは、家康の生涯を貫いていたのが「努力」「忍耐」「時」のセオリーだ。
人はまず自分の目標に向かって努力をする。だが、努力をしたからといって、すぐに目標が実現するわけではない。その間はぐっと耐え忍ばねばならず、やがて時が至れば成就する――。
難しいのは「時」の見極め方だ。時をつくろうとすれば焦りが生じ、待とうとしすぎれば消極的になる。大事なのは「時をつくりつつ、時を待つ」ということだ。家康の生き方からそのことを学び、ひそかに仕事を進める際の指針としたのである。
では、家康の生涯を通じての目標、あるいは理念とは何であったか。
戦国時代のさなか、武将どうしが互いに散々殺しあっているなかで彼が打ち立てたのは「欣求浄土厭離穢土(ごんぐじょうどえんりえど)」という理念だった。要するに、殺戮のない平和な世の中をつくりたい、というのである。