人生とは「努力」「忍耐」「時」の繰り返し。これは27~28歳のころ、『徳川家康』全巻を読み終えて気づかされたことである。

ドトールコーヒー名誉会長
鳥羽博道

1937年、埼玉県生まれ。県立深谷商業高校を中退し、東京で喫茶業に入る。58年、ブラジルへ渡航。帰国後の62年に独立。2005年、社長を子息の鳥羽豊氏に譲り翌年から現職。ドトールコーヒーは日本レストランシステムと07年に経営統合し、共同持ち株会社の傘下に入る。

私には学歴がない。だから数多くの書物を読むことで、経営課題に立ち向かってきた。コーヒー焙煎業のドトールコーヒーを設立してから3~4年目のことである。天下を取るにはどうすればいいか。そんな問題意識を持ち、眠い目をこすりながら毎晩いろんな本を読みあさった。

なかでも『徳川家康』は、『坂の上の雲』と並び、勉強させられることの多い小説だった。1冊のなかから1つか2つの大事を学び、自分のものにすることができたら、それだけでもたいへんな力になる。2つの名著は、私にとって大きなエネルギー源になったのである。

山岡荘八の描くところでは、家康の生涯を貫いていたのが「努力」「忍耐」「時」のセオリーだ。

人はまず自分の目標に向かって努力をする。だが、努力をしたからといって、すぐに目標が実現するわけではない。その間はぐっと耐え忍ばねばならず、やがて時が至れば成就する――。

難しいのは「時」の見極め方だ。時をつくろうとすれば焦りが生じ、待とうとしすぎれば消極的になる。大事なのは「時をつくりつつ、時を待つ」ということだ。家康の生き方からそのことを学び、ひそかに仕事を進める際の指針としたのである。

では、家康の生涯を通じての目標、あるいは理念とは何であったか。

戦国時代のさなか、武将どうしが互いに散々殺しあっているなかで彼が打ち立てたのは「欣求浄土厭離穢土(ごんぐじょうどえんりえど)」という理念だった。要するに、殺戮のない平和な世の中をつくりたい、というのである。