今川家の人質となるなど、幼少期から苦労を重ねた家康だからこそ、部下に対しても気を使うことができたのだろう。どちらかというと気の長いほうではない私は、家康の我慢強さに見習わねばと、自らを戒めている。幅広く部下の意見を聞き、活発に議論をすることで、徳川軍団は力をつけていった――『覇王の家』を読むと、そんな想像が膨らむのだ。

そうした家康のやり方は、私がいつも社員に対して話していることに重なる。「アズ・ワン・チーム」。

チームワークを大切にして総力戦で取り組まなければ、真の力は発揮できない、ということだ。私はいわゆる「ワンマン社長」というのがあまり好きではない。トップダウンとボトムアップをうまく融合した意思決定のあり方が望ましいと考えている。

人間には、皆それぞれにいいところがある。感性に優れた人。フットワークが軽く実行力のある人。スキルに長けた人……。こうした各人の長所を、組織としてどう活かすか。家康ではないが、何事においても、それが最終的に雌雄を決することになるのではないだろうか。

そんな私の考え方が、そのまま書いてあると感じたのが『熱狂する社員』である。

アメリカの権威あるビジネススクール、ペンシルベニア大学ウォートン・スクールの教授陣が選んだビジネス書シリーズの1冊だが、意外にも、日本的なマネジメントに通じる部分が多い。

これまでアメリカのビジネス書というと、ジャック・ウェルチやビル・ゲイツのようなスーパースター経営者の手腕を分析したものが主流で、私としては必ずしも共感できるものではなかった。

ところが本書では、社員のやる気の喚起や、組織としての一体感にフォーカスを当てている。その内容が企業経営の参考になったというよりも、日頃から考えていることの重要性を改めて確認できたという意味で、印象に残る1冊といえる。