立石諒(男子200メートル平泳ぎ銅メダル)
競泳のメインイベントだった。男子200メートル平泳ぎ決勝。23歳の立石諒が、五輪3連覇を目指した北島康介をタッチの差でかわし、銅メダルを獲得した。
立石の喜びようといったらなかった。「よ〜し」という雄叫びがスタンドまで届いた。右手でガッツポーズ、何度も水をたたいた。隣のコースの北島から声をかけられた。「おめでとう」と。
天才肌だけど、「練習嫌い」で有名だった。だがどん底を味わう。北京五輪の代表を逃し、目標を失いかけた。2年前。移籍先が見つからず、米国に武者修行に出かけた。もう水泳をやめようと思った。「あの時が一番、つらかった」と漏らす。帰国後、高校時代の恩師や周囲の支援で水泳を続けることになった。
「感謝」という言葉をよく口にするようになった。慶應義塾大学を休学し、猛練習に明け暮れた。姿勢が変わった。努力は裏切らない。それがこの日のレースにつながった。前半抑え、後半に勝負をかけた。「ラスト50メートルの勝負になるのはわかっていた。最後は死んでもいいと思っていた」。北島を0秒06抑えての銅メダルだった。
「いろんな人のおかげです。一番は両親が支えてくれた。つらい時は周りの仲間が助けてくれた。背中を押してくれた。ああほんと、あきらめないでよかった」。表彰式で手にした銅メダル。感触を聞かれ、「重いです。いろんな思いが詰まっているので……」。つらい時期を思い出したのか、言葉を詰まらせた。